著者
松原 和純
出版者
名古屋市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

前年度までの研究成果として、FISH法によって29の遺伝子がZ染色体にマッピングされ、そのうち5つがW染色体にもマッピングされている。そして、W染色体にもマッピングされた5つの遺伝子のうちCTNNB1とWACについて10科のヘビ種においてZとWホモログの塩基配列を解読し、分子系統樹を作製した。今年度は、SEPT7について同様に系統解析を行った。その系統樹の分岐パターンから、SEPT7のZとWホモログ間の分化はヘビ亜目の系統分化の初期に起きたと推定された。3つの遺伝子の分岐パターンを比較した結果、ヘビにおけるZとW染色体間の分化は動原体領域から始まったと推定された。また、ヘビの進化過程において比較的短時間で性染色体間の分化領域が拡大したと推定された。哺乳類や鳥類では性染色体の分化は染色体の末端から始まり、段階的に分化領域が拡大したと推定されている。ヘビにおける分化過程はそれらと異なり、性染色体の進化について新たな知見をもたらすと思われる。現在、この成果について論文を執筆中である。シマヘビの産卵後0日と4日の胚から生殖腺を摘出し、cDNAライブラリーを作製した。DMRT1、SOX、CYP19A、FOXL2などの性分化関連遺伝子の発現量をRT-PCRによって雌雄間で比較した結果、生殖腺の性分化は産卵後0日から4日の間に始まることが推定された。そこで、次世代シーケンサーを用いて産卵後4日杯の生殖腺におけるトランスクリプトーム解析を行い、発現遺伝子の種類やその発現量を雌雄間で比較した。ZとW染色体の両方に位置する遺伝子の一つであるCTNNB1が性分化初期の雌の生殖腺で強く発現していた。マウスにおいてこの遺伝子は未分化生殖腺が卵巣へ分化する際に必須であることが実験的に証明されている。これらのことから、現時点において、CTNNB1がヘビにおける性決定遺伝子の最有力候補と考えられた。
著者
松原 和純
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ヘビにおける性染色体の分化過程を解明することを目的として、3 種のヘビ(インドニシキヘビ、シマヘビ、ハブ)において性染色体の構造比較を行った結果、インドニシキヘビのZW 染色体は分化の初期状態を保持してきたことや、シマヘビとハブの共通祖先においてW 染色体の矮小化が進んでいたことが示唆された。また、ヘビにおいて性分化関連遺伝子群の染色体上の位置を同定した結果、哺乳類において卵巣形成に関わるとされるβカテニン遺伝子が性染色体に位置することが明らかとなった。さらに、いくつかの性決定関連遺伝子の胎児期の性腺における発現パターンの雌雄差を調べた結果、産卵後10 日以前に性分化が開始することが明らかとなった。