著者
松寺 駿 森 照貴 肘井 直樹
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.21-00004, (Released:2021-12-10)
参考文献数
38

河川に生息する魚類にとって,水際部は産卵場所や稚魚の成育場となるため重要な場所とされている.そのため,コンクリート護岸の設置による影響が懸念されているが,遊泳魚に対する負の影響に比べ,底生魚への影響はあまり示されていない.底生魚は砂泥を好む魚種から礫を選好する魚種まで,その特性は幅広く,対象とする河川区間に生息する魚種相に応じて,コンクリート護岸による影響は異なるものと考えられる.そこで本研究では,魚種相が異なると考えられる2つの地域を対象に,コンクリート護岸の設置が魚類群集にどのような影響を及ぼすのか,水際部の環境が異なる河川区間において比較することで検証を行った.揖斐川または長良川の中流および下流部に流入する中小河川において,両岸とも流水がコンクリート護岸に接する区間(CC タイプ)と,護岸の有無に関わらず,両岸ともに流水が堆積した土砂に沿って流れる区間(SS タイプ),さらにコンクリート護岸と堆積土砂に片岸ずつ接する区間(CS タイプ)の3つを各調査河川において1つずつ選定し,調査を行った.遊泳魚の種数および個体数は水際が砂礫となった区間に比べ流水が直接コンクリート護岸に接した区間で少なくなっていた.一方,礫底を好む底生魚の個体数は流水がコンクリート護岸に接した区間で多くなっていた.流程に応じて水際部の環境の違いに対する魚類の種組成の反応も異なっており,コンクリート護岸の設置が魚類群集に及ぼす影響は魚類の生活様式や河川の流程に応じて変化することが明らかとなった.さらに,流水が片岸のみコンクリート護岸に接した区間における魚類群集の構造(種数,個体数,種組成)は両岸の水際が砂礫とな った区間と類似する傾向がみられ,中小河川においてコンクリート護岸を設置する場合,片岸のみにとどめられるような配慮・工夫をすることで魚類群集への影響を緩和できる可能性が示唆された.