著者
松山 康甫 岡村 克郎
出版者
日本茶業技術協会(農林省茶業試験場内)
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
vol.1984, no.59, pp.28-40, 1984
被引用文献数
1

南九州畑作地帯における平坦地茶園の機械化栽培技術体系を確立するため,荒茶工場の標準的規模とみられる20haの茶園を対象に,履帯形の茶園専用作業機(摘採機,防除機,施肥中耕機等)を中心に共同作業を行うこととして試験した。<BR>集団規模の20haは1戸平均2.5haの茶園を持つ農家8戸で構成するものとして想定し,その中の1戸当りについて目標とする技術水準を検討した。<BR>そこで,1戸の家族労働力を男女2名とし,年間に労働する日は,日曜・祝日を除いた日で作業時間を8時間/日と設定した。<BR>目標とする技術水準のなかの,成園時1ha当り労働時間を609時間とし,さらに試験を行ったところ次の結果を得た。<BR>(1) 乗用履帯作業機を基幹として各作業を行った結果,強い晩霜害によって摘採計画の変更を行った年もあったものの,いずれも適期内に実施できた。<BR>(2) 体系化における各作業精度は,個別試験時と変わらなかった。従って,当機械化栽培体系で実施した場合,現行技術より作業精度は低下せず,むしろ部分的に向上するものが認められた。<BR>(3) 体系化における総合労働時間は,第1年目が1973時間(樹令8年生45a,6年生100a,4年生105a,計250a),第2年目が1596時間,第3年目が1420時間,第4年目が1407時間で,第3年目以降はha当り約565時間となり,成園時の目標時間である609時間の93%となった。また,その実ほ場作業率は80~87%であった。<BR>このように,総合労働時間が少なくなったのは,茶園の成園化に伴い,雑草の発生が減少したことが主な要因である。<BR>次に,総合機械利用時間は,第2年目以降471~472時間であり,1ha当り約180時間となって成園時の目標時間235時間の77%となった。また,その実ほ場作業率は77~80%であった。<BR>なお,1ha当り労働時間は被覆の有無によって差が大きく,特に被覆巻取り作業に要する時間が摘採作業の約2倍に相当する200時間と大きかった。<BR>(4) 作業体系と労働配分の関係は,2.5haを基幹労働力2人のみでほぼ全作業ができたが,一番茶は4月末から5月初めの連休と重なるので,この時期のみは日曜・祝日に作業を要し,他に時間外労働を一部に要するのみであった。また,雇用労働については,第1年目の被覆巻取り作業に93時間,第3年目には台風が接近し,被覆してあった寒冷しゃが吹き飛び,これを補正するのに12時間を要した。<BR>以上の結果を総合すると晩霜害の強い年があったにもかかわらず,第2年目以降の労働配分とその労働投入はスムーズに行われた。また,作業精度,総合労働時間等については,目標値を上回り1ha当り労働時間は550~560時間となった。更に,この外の想定した経営目標値をすべて達成でき,乗用履帯作業機を中心とした作業体系を確立することができた。<BR>本研究は,鹿児島県茶業試験場において1974年1月から4年間にわたり,農林水産省総合助成試験事業実用化技術組立試験として実施した。<BR>この研究に対し,終始適切な指導助言を賜った元農林水産省茶試企画連絡室長,杉井四郎氏,同茶試枕崎支場長前原三利氏,推進委員の方々,鹿児島県農試企画経営部,同農試大隅支場農機研究室の方々に対し,ここに謹んで感謝の意を表する。<BR>また,この報告のとりまとめに懇篤なる援助と協力をいただいた,当場環境研究室長藤島哲男氏,鹿児島県農業改良専門技術員原之園親男氏に心から感謝する。なお,本研究中,終始助言指導を賜った当場職員で構成された推進グループおよび加工研究室の方々に謝意を表するとともに,基幹労働力として協力された中木原末孝氏,福田サチ氏に厚く御礼申し上げる。
著者
田中 敏弘 松山 康甫 神嵜 保成 嶽崎 亮
出版者
Japanese Society of Tea Science and Technology
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.63, pp.1-10, 1986-06-01 (Released:2009-07-31)
参考文献数
7

凍霜害の程度とその後の整枝処理が茶芽の生育,品質に及ぼす影響を検討した。凍霜害の被害程度は,被害区分0 (被害率0%),I (同15~40%),II (同41~49%),III (推定50~75%),IV (推定76~99%),V (同100%)に分けられた。被害区分の異なる2.2~2.3期のやぶぎたと3,3葉期のゆたかみどりで,整枝区と無整枝区を設け,試験を行った。さらに,くりたわせで凍霜害を受けた新葉の葉傷み臭味を経日的に調査し,被害後15日目に品質,市場評価を行った。1) 被害区分I~IVにおいては,やぶきた,ゆたかみどりとも無整枝区が整枝区に比べ,新芽数,枠内新芽重収量が明らかに多く,製茶品質でもすぐれ,粗収益も多かった。2) 被害区分Vにおいては,やぶぎたの整枝区が無整枝区に比べ収量,製茶品質,粗収益でややすぐれたが,新芽の生育で は差異が認められず,ゆたかみどりでは両区ともほとんど差は認められなかった。3) 摘採期は整枝することにより概して遅れ,この程度は被害が弱いほど大ぎく,被害区分Vでは差異がなかった。また,粗収益も整枝処理により概して少なくなり,この減収割合も被害が弱いほど大きく,Vでは差異はなかった。4) 凍霜害後の葉傷み臭味は,2日目以降では経日的に軽くなるようであるが,枯死芽の混入割合が80%程度であると19日目において葉傷み臭味がやや残った。しかし,摘採時に20%程度の枯死芽を含んでいた製品は,凍霜害後15日を経過すると無被害の約70%の市場評価額であった。5) 以上の結果から2.2~3.3葉期において,凍霜害が新芽の全てについて上部より1~2節目で褐変した程度であれば,その後の対応としては整枝するより放任の方が適当と考えられる。なお,摘採時には,枯死芽をなるべく混入させないで収穫することも品質上効果があると考えられる。本試験に関して,農林水産省茶業試験場茶樹第3研究室長青野英也氏,当時当場栽培研究室長(現大隅支場長)の岡本信義氏の助言をいただき,官能審査に当っては加工研究室の松久保哲矢,花田十矢,大城光高,佐藤昭一の各氏のご協力をいただいた。ここにお礼申し上げる。
著者
田中 敏弘 山中 浩文 岩倉 勉 松山 康甫 嶽崎 亮
出版者
日本茶業技術協会(農林省茶業試験場内)
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.69, pp.1-11, 1989
被引用文献数
2

チャの潮風害回避のため,蒸散抑制剤と洗浄,間作作物の利用について検討した。<BR>1) 1985年8月31日に台風13号が通過した。それより9日前に,蒸散抑制剤(グリンナー:ワックス水和剤)の10%液を200l/10a散布しても,無散布に比べ,潮風害の発生程度に差がみられなかった。<BR>2) 海水散布(200l/10a)後洗浄までの時間が,4時間以上経過すると1000l/10aの水で洗浄しても無洗浄と差がなく,0.5時間後の洗浄では無洗浄の61~71%の被害発生が認められた。<BR>3) 間作作物としてソルガムを用いた幼木園は,台風通過時にソルガムの草丈が128~142cmで,幹数が27~40本/mに達していれば,防風垣の効果のない所では,枯死株率が59~82%に達し,改植が必要と思われたのに対し,2番目のソルガムの防風垣の背後にある5,6畦目からは,枯死株率は2~9%で実害はなかった。<BR>4) 以上の結果から,潮風害の回避のためには小量の水による洗浄より,防風対策が有効と考えられ,幼木園では,間作も有効な手法であり,間作作物としては,ソルガムのように耐倒伏性の強い作物が適するであろう。