著者
松嶋 美正 池田 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O2070, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】地域在住高齢者において総合的に身体機能の把握が可能な評価スケールは少なく,包括的身体機能評価スケールは,項目数が多く,取り扱いが不便であり測定に時間を要するため時間的に簡便であるとは言い難い。日常生活動作により包括的に身体機能を把握可能な評価スケールの一つにBerg Balance Scale(BBS)ある。しかし,屋内歩行が自立している地域在住高齢者の場合,項目によっては天井効果も見受けられるため,項目数の減少による簡略化が可能であると考えられた。したがって,本研究においてBBSの評価項目を精選し,項目数を減少させた簡略化BBSを開発することと,簡略化BBSの信頼性,他の身体機能や転倒との関連性を検証することを目的とした。【方法】対象は,病院・施設に外来,通所,入所しており屋内歩行自立している高齢者120名(年齢79.2±6.9歳)とした。男性57名,女性63名であった。主要疾患としては,脳血管障害が38名,整形外科疾患が51名,神経筋疾患が13名,循環器疾患が11名,その他が7名であった。歩行レベルは,独歩が68名,T字杖が37名,四点杖が4名,歩行器が11名であった。身体機能評価としてBBSの測定,BBS項目にある「リーチ動作」はファンクショナルリーチテスト(FRT)として計測した。また,BBS測定中,各項目の測定に要する時間を計測した。その他の身体機能評価としては,握力,最大10m歩行の測定を行った。転倒に関する調査として改訂転倒自己効力感尺度(MFES),転倒・つまずき経験の有無を聞き取り調査した。データの分析方法は,BBSのデータを統計ソフトのBIGSTEPSを用いてラッシュ分析を行い,対象者とBBS項目の関係を直線上に表し簡略化BBSを作成した。BBS原法と簡略化BBSの比較はPearsonの相関係数,簡略化BBSの信頼性分析(クロンバックのα)を検証した。簡略化BBSとその他の身体機能評価,転倒に関する調査との関連性はPearsonの相関係数を用いて検討した。いずれの解析も有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】本研究の主旨を説明し同意の得られたものを対象とした。また本研究は,首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理審査委員会の承認を得て実施された。【結果】BBS項目の難易度は,「座位保持」,「閉眼立位」,「立位保持」,「腰掛け」,「拾い上げ」,「立ち上がり」,「移乗」,「閉脚立位」,「リーチ動作」,「振り向き」,「ステップ動作」,「360°回転」,「継足立位」,「片脚立位」の順に難易度が高くなった。14項目のうち対象者の分布範囲内(±2SD)に難易度の高い8項目が含まれ,そのうち3項目がラッシュモデルとの適合度が不十分であった。8項目のうち適合度が不十分であった項目は,「ステップ動作」,「閉脚立位」,「移乗」であった。項目難易度と適合度からBBS14項目中,5~8項目(5~8BBS,簡略化BBS)を抽出した。クロンバックのαは,BBS原法で0.86,簡略化BBSで0.78~0.86であり,BBS原法との相関係数は,項目数が多いほど高くなり8BBSでr=0.99となった。BBSの評価時間においては,BBS原法で8.8±1.8分,簡略化BBSでは,4~6分程度であった。BBS原法,簡略化BBSと他の身体機能などとの関連性は,最大10m歩行やMFESで中程度の相関を示した。また,BBS原法や簡略化BBSと実際の転倒経験とは関連性が認められず,BBS原法でカットオフ値を45点と設定した場合の感度は41%,特異度は62%であった。【考察】BBSの各項目の難易度は,対象者が屋内歩行の自立しているものとしたため,日常的な基本動作能力は獲得されていると考えられ,本研究の対象者の場合,応用的動作から低下していくことが示唆され,BBS項目でも難易度が高い項目が身体機能の能力低下の抽出に有用だと推測される。簡略化BBSの信頼性,妥当性に関しては,包括的なスケールであることを維持し,原法と同等の信頼性を得るためには8項目は必要であると考えられる。内容的妥当性としては,対象者の分布範囲内である運動課題を実施することで十分であると考えられる。その他の身体機能との関連性としては最大10m歩行との関連性が認められたことから,基準関連妥当性が証明された。予測的妥当性は,BBS原法に転倒経験と関連性が認められなかったこと,また,BBS得点の45点をカットオフ値とした場合,感度も低く転倒に対するスクリーニングテストとしての妥当性は低いと考えられる。この点においては,今後も検討する必要性はあるが,信頼性,妥当性に関する原法との比較から8BBSに簡略化することは可能であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】評価スケールの中には,開発段階から考慮すると必ずしも様々な臨床場面の対象者において,相応しいスケールであるとは限らない。日頃使用している評価スケールが,その臨床場面,対象者に相応しいかどうか,一つの評価スケールについて検証した研究である。