著者
後藤 健太郎 松末 亮 山口 高史 森吉 弘毅 猪飼 伊和夫
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.54, no.10, pp.728-735, 2021-10-01 (Released:2021-10-27)
参考文献数
30

症例は76歳の女性で,3年前に肛門前方の無痛性腫瘤を触知し,数か月前から増大するため受診した.肛門前方の硬結を伴う2 cm大の皮下腫瘍が皮膚に露出し,表面は粘液で覆われていた.CTで腫瘍の肛門括約筋および膣への浸潤が疑われ,両側外腸骨リンパ節が腫大し,PET-CTで原発巣と両側外腸骨リンパ節に集積が亢進していた.生検でアポクリン腺癌や異所性乳房由来の腺癌が疑われた.両側外腸骨リンパ節転移を伴う会陰部アポクリン腺癌の診断で腹腔鏡下腹会陰式直腸切断・膣壁合併切除,両側外腸骨リンパ節摘出術を施行した.腫瘍は前方で膣壁上皮直下に達し後方では一部肛門管上皮に露出し,両側外腸骨リンパ節転移が確認された.アポクリン腺癌は浸潤性と転移性を獲得するまで数か月から数年の静止期があるとされる.会陰部の経時的に増大する皮下腫瘤ではアポクリン腺癌も鑑別疾患の一つとして考え,生検による早期確定診断が重要と考えられた.
著者
豊田 有紀 後藤 健太郎 畑 啓昭 松末 亮 山口 高史
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.199-206, 2022-03-01 (Released:2022-03-31)
参考文献数
21

症例は77歳の女性で,受診3日前から湿性咳嗽,発熱があり,SARS-CoV-2 RNA検査陽性で前医入院となった.受診日に酸素化低下,食事量低下・嘔吐があり,CTで小腸壊死を疑う所見を認め,当院に転院搬送された.術前胸部CTで肺炎像を認めず,小腸壊死による腹膜炎の診断で緊急開腹小腸部分切除術を施行した.術後腹部症状は改善したが肺浸潤影が急速に増悪し,術後5日目に呼吸不全で死亡した.SARS-CoV-2 coronavirus disease 2019(以下,COVID-19と略記)患者に手術を施行すると肺合併症のため術後死亡率が高くなるという報告があり,可能なら手術の延期や非手術治療の選択が推奨されている.本症例は小腸壊死の疑いで非手術治療が困難だったことで緊急開腹術の適応と考えられたが,術後肺炎が急激に悪化し死亡した.術前肺炎像のないCOVID-19患者でも全身麻酔手術後の予後が不良であることを示唆する1例であり,周術期の感染対策と併せて,報告する.
著者
成田 匡大 花田 圭太 松末 亮 畑 啓昭 山口 高史 大谷 哲之 猪飼 伊和夫
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.513-520, 2017-07-01 (Released:2017-07-26)
参考文献数
15
被引用文献数
3

目的:慢性疼痛は,成人鼠径ヘルニア術後晩期合併症として認識されてきているが,その治療法は確立していない.本研究の目的は,当科にて作成したアルゴリズムを用いて難治性慢性疼痛の治療を行い,その妥当性を実際の治療成績を下に検証することである.方法:2013年3月から2016年8月の間に,術後3か月以上たっても鎮痛剤内服でコントロールできない疼痛を有する難治性慢性疼痛症例に対して当科で作成したアルゴリズムに従って治療を行った.結果:体性痛6例,神経因性疼痛4例,精巣痛1例の11症例に対してアルゴリズムに従って治療を行い,8症例で疼痛が消失した.8症例のうち5例はトリガーポイントもしくは腸骨鼠径および腸骨下腹神経ブロック注射による侵襲的内科的治療で治癒し,3例は手術にて治癒した.結語:鼠径ヘルニア術後難治性慢性疼痛の治療では,疼痛の種類(体性痛と神経因性疼痛)を診断し,積極的な治療介入を行うが重要である.当科で作成したアルゴリズムを使用することにより,複雑な病態である鼠径ヘルニア術後難治性慢性疼痛症例に対しても外科医主導で治療することが可能である.