著者
田悟 和巳 荒井 秋晴 松村 弘 中村 匡聡 足立 高行 桑原 佳子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.311-320, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1

森林性の中型食肉類であるテンMartes melampusを対象に,糞から抽出したDNAを用いて,個体数の推定を試みた.調査は熊本県阿蘇郡(以下,阿蘇)および佐賀県佐賀市(以下,佐賀)で行った.調査地域内で採集した糞のDNA分析の結果,阿蘇で95個体,佐賀で50個体を個体識別できた.各個体の確認期間から,定着個体と非定着個体に分けたところ,定着個体は阿蘇が13個体,佐賀が10個体であった.阿蘇では非定着個体が秋季に増加する特徴が見られたが,これは調査地の地形的な特徴から,移動路として利用する個体が多く確認されたためと考えられた.個体群密度は,阿蘇で0.14~0.19個体/ha,佐賀で0.09~0.13個体/haであった.これはこれまで知られているテン属の中では特出して高い数値であった.また,親子ではない同性間の成獣において,利用地域が重複する場合があることが確認され,必ずしもテンが排他的ではないことが示唆された.