著者
田悟 和巳 髙橋 明寛 萩原 陽二郎 益子 理 横山 陽子 近藤 弘章 有山 義昭 樋口 広芳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.41-61, 2020-04-23 (Released:2020-05-16)
参考文献数
59

渡り鳥の多くは夜間に渡りを行っていることが知られている.しかし,夜間における渡りの動向を調査する方法は限られているため,日本ではその実態はほとんどわかっていない.そこで,北海道から九州の140地点で船舶レーダーを用いた夜間の渡り鳥の調査を実施した.レーダー調査では種の同定はできないものの,夜間でも鳥類の飛跡数を定量的に調査でき,飛翔高度等が把握できるという利点がある.調査は各地点とも秋・春2回ずつ,日没時刻から日出時刻後3時間まで行い,幅2 kmの範囲の上空を飛翔する渡り鳥の飛跡数を計測した.560地点の飛跡数の平均は秋季14,415,春季4,388で,最大は109,693飛跡であった.飛跡数と環境条件との関係について一般化線形混合モデルにより解析した.応答変数は飛跡数,説明変数は調査地点の緯度,経度,調査時期,標高,地形,レーダー画像取得時間の割合,調査開始時の雲量とした.飛跡数に関係する要因として重要なのは,調査開始時の雲量であった.飛翔高度は対地高度300–400 mを頂点とする一山型を示した.飛翔時間は,日の入り時刻後80分から140分後頃に最大値を迎え,その後,徐々に減少した.本調査により推定された渡りのルートの多くが,既存の調査により既に知られており,このことは,本研究の結果の有効性を示唆するとともに,上昇気流を利用して日中に渡りを行う種と夜間に渡りを行う種の渡りルートは類似していることを示唆していた.このように船舶レーダーを用いた手法は,夜間を含む渡り鳥の動向を調査する方法として,優れた手法であることが明らかになった.
著者
田悟 和巳 荒井 秋晴 松村 弘 中村 匡聡 足立 高行 桑原 佳子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.311-320, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1

森林性の中型食肉類であるテンMartes melampusを対象に,糞から抽出したDNAを用いて,個体数の推定を試みた.調査は熊本県阿蘇郡(以下,阿蘇)および佐賀県佐賀市(以下,佐賀)で行った.調査地域内で採集した糞のDNA分析の結果,阿蘇で95個体,佐賀で50個体を個体識別できた.各個体の確認期間から,定着個体と非定着個体に分けたところ,定着個体は阿蘇が13個体,佐賀が10個体であった.阿蘇では非定着個体が秋季に増加する特徴が見られたが,これは調査地の地形的な特徴から,移動路として利用する個体が多く確認されたためと考えられた.個体群密度は,阿蘇で0.14~0.19個体/ha,佐賀で0.09~0.13個体/haであった.これはこれまで知られているテン属の中では特出して高い数値であった.また,親子ではない同性間の成獣において,利用地域が重複する場合があることが確認され,必ずしもテンが排他的ではないことが示唆された.