著者
杉村 龍也 吉村 公博 井木 徹 松村 弥和 蟹江 史明 今川 智香子 梶原 佳代子 龍樹 利加子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.79, 2006

<b><緒言></b>医療法の改正や診療報酬の改定、社会福祉基礎構造改革で介護保険法を主とした社会保障領域における福祉制度の改正や新設などにより、患者を取り巻く医療供給体制がここ数年目まぐるしく変化してきている。急性期病床の加茂病院においても、退院や転院に関する援助件数が、年々飛躍的に増加している。そこで、医療供給体制の変化と当地域医療保健福祉連携室における相談実績の統計資料とを比較検討し、豊田市(人口40万)における今後の地域医療のあり方を考察する。<BR>〈<b><方法></b>〉平成7年度から平成17年度の加茂病院の地域医療保健福祉連携室の相談実績の統計や豊田市周辺の医療・介護提供施設の状況と、第2次医療法改正から現在までの医療供給体制の推移を比較検討する。<BR><b><結果></b>加茂病院の地域医療保健福祉連携室における対応件数は開設当時から現在に至るまで年々増加の一途をたどってきている。その内訳を見ると、全体的に増加傾向であるが、中でも退院・転院に関する相談は顕著である。平成7年当時と比べると、退院・転院相談の実件数は平成12年で2倍強、平成16年では4倍強となっている。<BR> 転院の例として平成9年当時の医療・介護提供施設を見てみると、転院先として挙げられるのは老人病院と長期療養型病床群、老人保健施設しかなく、特に豊田市では、平成9年当時は長期療養型病床群が無く、老人病院も市内には一ヶ所のみであり、周辺市町村への転院が殆どであった。そのため、施設待機の1ヵ月から2ヶ月を加茂病院での入院継続を余儀なくするケースも多かった。<BR> しかし、現在の医療・介護提供施設を見ると、施設がそれぞれ専門分化してきている。急性期病院では、急性期加算をとるための平均在院日数を意識しながらの退院指示や、受入れ施設に併せた形での退院指示が増えている。回復期リハビリテーション病棟では、入院日数や入院までの日数に制限が設定されるようになり、早期での転院を求められるようになった。以前のように施設待機を急性期病院で過ごすことが難しくなり、早期での退院指示に不安を抱える患者・家族が多くなったのである。つまり、単独の医療機関では、治療から療養・介護までの一連の医療の提供ができないのである。<BR> この現状は、国の医療費抑制政策が大きな要因となっている。特に平成12年の介護保険法施行や平成14年の急性期入院加算の設置などは、専門特化しないと病院が生き残っていけない現状を作り出したと言える。それ以上に影響を被ったのは患者・家族である。社会構造や家族形態の変化による家庭介護力不足が深刻な中で、医療依存度が高い患者でも退院指示が出されるようになり、高額な施設への転院や、充分な準備の無い中での退院を迫られる状況となった。以上のことが退院相談増加に繋がっていると言える。<BR> 結論として、今後の地域医療では、単独の医療機関だけで充分な医療の提供はできない。そのため、患者・家族に不安の無い充分な医療を提供するには、医療費抑制政策の中で専門分化した複数の医療機関が、相互の特性を活かした密接な連携を図り、地域の中で一つの大きな医療機関として機能する必要があると考える。