著者
松村 拓大
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.167-175, 2019 (Released:2019-11-30)
参考文献数
22

ボツリヌス神経毒素は,ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)などによって産生されるエンドペプチダーゼ活性を持つ極めて生物活性(毒性)の高いタンパク質毒素である。本毒素は常に無毒成分との複合体として産生される。食餌性ボツリヌス症(ボツリヌス食中毒)は,神経毒素複合体が経口摂取され腸管から吸収された後,神経・筋接合部において神経毒素がSNAREタンパク質に作用することにより引き起こされる。本症の発症には,毒素が活性を保持したまま腸管から吸収される過程が必須であるが,巨大分子である本毒素が腸管上皮細胞バリアを通過する機構については不明であった。我々は腸管上皮細胞株を用いたin vitroの解析から無毒成分の一種であるhemagglutinin(HA)が細胞間バリアを破壊する強力で新規の作用があることを発見し,その標的分子がE-cadherinであることを明らかにした。さらに実際の生体内(in vivo)では神経毒素複合体がパイエル板を覆う濾胞被覆上皮に存在する特異的な細胞,Microfold cell(M細胞)から吸収されることを発見した。 本稿では我々の解析の結果から明らかとなったボツリヌス毒素の巧妙な体内侵入機構について述べたい。