著者
松村 洋子
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

【クビナガハムシ亜科の系統推定とオス・メス交尾器の詳細な形態観察から,交尾器の伸長現象と連動したオス・メスの複雑な共進化の全貌が解明されつつある】一般に繁殖に関わる形質は,他の形態形質では区別ができない種間でも,顕著な差異を示す例が多く知られる.交尾器特有の多様性を生む原動力は性淘汰・性的対立によると考えられ,行動生態学的な視点からの研究が行われてきた.一方で,その多様な形態をもつ交尾器の進化史はこれまであまり着目されてこなかった.さらにオス・メス交尾器の共進化の研究もサイズという一面しか捉えられてこなかった.形態形質の変化は個体発生の変更によってもたらされ,発生単位の構成要素間で連動した形態変化が起こることが十分に予想される.しかし,これまでにそういった発想で繁殖形質の網羅的な形態観察に基づく共進化史を推定した例はない.本研究では,これまで見落とされてきたサイズ以外の要素も含めたオス・メス交尾器の共進化の実態解明を目的とし,クビナガハムシ亜科に見られる交尾器の伸長現象を取上げた.これまで良く知られているように,オス・メス間の交尾器長の共変化に加え,メス側の構造に,オスの伸長部の有無と連動した以下の変化傾向があることが分かった:(1)交尾時にメス側の受入れ口となる部位に観察されるパッドの有無,(2)メス膣の表面に観察される剛毛のパッチの位置,(3)メスの精子貯蔵器官の複雑さ.さらに,オスの伸長部の長さがある閾値を越える否かで,オスの伸長部を取り巻く膜の表面構造が劇的に変化することが分かった.現在,形態観察に加えて本分類群の分子系統樹の構築を進めている.今後は,これを基に,交尾器の形質状態の祖先・子孫関係を決定し,オス・メス交尾器の共進化史を提示する.