著者
松永 寿人 三戸 宏典 山西 恭輔 林田 和久
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.3-10, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
34

現在OCDに対する治療では,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの薬物療法,曝露反応妨害法を主とした認知行動療法(CBT)が中心である。SSRI抵抗性の場合の(非定型)抗精神病薬の付加的投与を含め,有効性が確立されている全ての治療オプションを用いても,十分な改善が得られなければ難治性と判定される。さらにOCD患者では,5 ~ 10年後など長期的予後での寛解率は 50%程度とされ,再発も多く,これらの対応が今後の課題となる。まずは現行の薬物やCBTを見直し,最適化を図ると伴に,標準化を進めるべきである。そして認知療法や入院を含め,個々に応じた治療選択を行い,さらに精神病理や認知,環境など,難治性に関わる臨床像や病態を多角的に検討して,その定義を明確化する必要がある。しかしOCDでは,生物学的病態の多様性が想定され,新たな治療アプローチの開発も期待される。加えて,発症早期の治療介入が重要であり,社会的啓発も有効な対策となろう。
著者
清野 仁美 湖海 正尋 松永 寿人
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.270-277, 2014-07-15 (Released:2017-08-29)
参考文献数
25
被引用文献数
1

精神障害を有する妊産婦では,周産期において向精神薬の中断や心理社会的ストレスなどによる精神障害の再発や悪化のリスクが高まるが,予防のための系統的なストラテジーは確立されていない。このため,精神障害患者が周産期において直面する問題のマネージメントを行い,既存障害の悪化を予防し,リプロダクティブヘルスの向上を目指した介入が求められている。今回われわれは,精神障害を有する妊産婦への1)心理教育,2)Shared Decision Makingに基づいた周産期ケアプランの作成,3)社会福祉資源の導入,4)家族教育,5)養育スキルトレーニングで構成される,包括的介入プログラムを作成し,その効果について前方視的調査を実施した。結果,介入後および産後1カ月の時点で,精神症状や全体的機能水準の改善が示唆された。本研究は対照群を設けないオープン試験であり,今後,対照群を設けた多施設研究によりさらに症例数を増やして検討することが望ましいと考える。
著者
松永 寿人
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.13-23, 2021-11-30 (Released:2022-01-14)
参考文献数
40

ICD-11に新設された「強迫症および関連症群(obsessive-compulsive and related disorders ; OCRD)」について,強迫症を主とした強迫スペクトラムの導入,あるいは他の不安障害からの分離といったDSM-5でこの領域になされた改訂との連続性を中心に概説した。OCRDは1990年ごろに提唱された強迫スペクトラム概念を基盤としており,これに分類される精神疾患は,「とらわれ」と「繰り返し行為」を中核的病理として共有し,また不安症との差異として,病的不安を必ずしも伴わないこと,妄想的な場合など洞察水準が多様であること,などが特徴的である。さらにはプライマリケアに加え,内科や外科,皮膚科といった一般診療科,美容整形外科など,多彩な臨床場面で遭遇しやすい点もOCRD内で共通している。このため今回の改変は,ICD-11が目指す臨床的有用性を大いに配慮したものであるが,これが実臨床にもたらすメリット・デメリットに関して,その妥当性あるいは信頼性を含め,さらに検討を要するであろう。
著者
松永 寿人
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.86-99, 2015-03-31 (Released:2015-05-29)
参考文献数
60

強迫症(OCD)は,DSM-IV-TRまで,神経症あるいは不安障害の一型とされてきた。しかしDSM-5では不安症群から分離され,「とらわれ」や「繰り返し行為」を特徴とする強迫症および関連症群という新たなカテゴリー内に位置づけられた。すなわちOCDの疾患概念は,不安の病気から強迫スペクトラムへと転換することとなり,その背景には,病因や病態,治療など他の不安症との相違に関する知見の集積がある。一方,病的不安や回避,うつ病との密接な関連性などの共有,さらに生物学的病態や治療を含め他の不安症との共通性も明白で,両者の関係は極めて複雑である。その複雑さには,cognitiveからmotoricなものまで,さらに自閉スペクトラムや嗜癖性障害などとの重なりや連続性を含むOCD概念の異種性や広がりが関わっており,OCDの今後の方向性については,現概念の妥当性や臨床的有用性を含めさらに検討が必要である。