著者
松永 梓 大畑 光司 古谷 育子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI1163, 2011

【目的】脳性麻痺者が有する変形の一つに脊柱側弯が挙げられる。脊柱側弯の重症度を示す指標としてcobb角が用いられるが、通常のcobb角はX-p画像より測定しなければならないため、患者への被爆の問題や計測の難しさから、容易に測定することができない。そのため、脊柱の変形を簡便に測定できる方法を確立していくことの重要性は高いと考えられる。我々は第44回日本理学療法学術大会にて、メジャーでの脊柱彎曲の程度の計測により、脊柱側弯の指標であるcobb角との相関を示す脊柱変形の定量評価を紹介した。しかし、この方法による検者間信頼性については明確ではない。本研究の目的は、頚椎と骨盤との距離の短縮率を求め、その短縮率とcobb角との関係で検者間信頼性を検討することである。<BR><BR>【方法】対象:病院に入院中の成人脳性麻痺者14名(男性5名、女性9名、平均年齢35.8±5.6歳)を対象とした。全対象者のGMFCSはVレベルであった。<BR>測定方法:測定肢位は腹臥位とした。第7頚椎棘突起から両側上後腸骨棘を結ぶ線の中心までの距離を頚椎―骨盤間距離とし、2点間を脊柱に沿って計測したものと、2点間の直線距離の2つの長さを求めた。2点間の直線距離と脊柱に沿って計測した距離を用いて短縮率を求めた。この短縮率の測定は2回行い、その平均値を代表値として用いた。cobb角の値は、通常の定期診察において過去1年以内に撮影したX-p画像を用いて測定した。S字カーブを呈している脊柱に関しては、胸椎レベルと腰椎レベルに分けて測定し、その合計を代表値として求めた。検者は経験年数5年以上の理学療法士2名とし、測定前に同じ測定方法を記載した紙を読み、理解してから同日、同時刻に実施した。<BR>統計処理:それぞれの検者での短縮率とcobb角との関係をpearsonの相関係数を求めて調べた。また、検者間信頼性を級内相関係数(ICC(3,k))を求めて調べた。<BR><BR>【説明と同意】本研究で用いたX-p画像は定期診察において撮影されたものを、後方視的に分析した。脊柱測定については、院内規定にのっとって行い、管理者の同意と指導のもと、測定を行った。<BR><BR>【結果】それぞれの検者で、頚椎―骨盤間距離の短縮率とcobb角との間に相関が見られた。(検者1:r=-0.66、検者2:r=-0.48)分散分析で、検者間の有意確率は5%以上であり、それぞれの検者の短縮率の測定結果の平均は、検者1が0.88±0.04、検者2が0.84±0.04であり、測定結果に有意な差は認められなかった。ICCの平均測定値は0.75であった。<BR><BR>【考察】本研究の結果において、それぞれの検者内では、頚椎―骨盤間距離の短縮率とcobb角との間に相関が認められ、短縮率が脊柱の変形の程度を反映する測定方法として妥当性があることが示された。また、検者による測定結果に有意差が認められず、本測定が検者間である程度の信頼性があることが示された。しかし、ICCの結果から検者間信頼性が0.75であり、信頼性は認められるものの、高い値ではなかった。この原因としては、短縮率とcobb角との相関が、検者1が0.66、検者2が0.48というように少し違いが見られていることと関連していると考えられる。今回の測定は、ともに不慣れな状態での測定であったため、習熟により信頼性が増す可能性が考えられる。また、短縮率は第7頚椎棘突起から骨盤までの距離を測定したものであり、脊柱の側弯だけでなく前弯、後弯も含めた全体的な変形を示すことになる。さらに胸椎や腰椎など部分的な変形を明確にすることができない。しかし、脊柱の変形をメジャーのみで測定できる短縮率は、臨床的に応用しやすいと考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】脊柱の変形をより簡便に測定できる方法を確立することは、今後の理学療法発展に寄与するものと考える。
著者
松永 梓 大畑 光司 矢野 生子 橋本 周三 南 純恵 中 徹 坪山 直生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P1286, 2009

【目的】脳性麻痺者が有する変形の一つに脊柱側弯が挙げられる.脊柱側弯が脳性麻痺者に及ぼす影響として、座位、立位の不安定、摂食嚥下障害、呼吸障害、消化器系の障害、痛み、ROM制限等様々な障害が挙げられる.脊柱側弯の重症度を示す指標としてcobb角が用いられる.cobb角の測定にはX-p画像より測定する必要があるため、臨床的に容易に測定することはできない.したがって、脊柱の変形を容易に測定する方法を確立することの重要性は高いと考えられる.本研究の目的は、頚椎と骨盤との距離の短縮率を求め、その短縮率とcobb角との関係を検討することである.<BR>【対象】重症心身障害児・者施設に入所中の成人脳性麻痺者13名(男性8名、女性5名、平均年齢36.4±7.1歳)を対象とした.本研究に参加するにあたり、保護者の文書による同意を得て行った.<BR>【方法】第7頚椎棘突起から両側上後腸骨棘を結ぶ線の中心までの距離を頚椎―骨盤間距離とし、2点間を脊柱に沿って計測したものと、2点間の直線距離の2つの長さを求めた.2点間の直線距離を脊柱に沿って計測した距離で除したものを頚椎―骨盤間の短縮率とし、姿勢による差異を検討するため、側臥位と座位とでの短縮率を計測した.cobb角の値はCT画像より胸椎レベルと腰椎レベルに分けて測定し、その合計を代表値として求めた.統計処理として、姿勢の違いによる短縮率の差を対応のあるt検定を用いて比較した.また、それぞれの姿勢での短縮率とcobb角との関係をpearsonの相関係数を求めて調べ、有意水準を5%未満とした.<BR>【結果】頚椎―骨盤間距離の短縮率は側臥位と座位とで有意な差が認められなかった.側臥位と座位における短縮率とcobb角との間に有意な相関(側臥位:r=-0.57、p<0.05、座位:r=-0.68、p<0.01)が認められた.<BR>【考察】本研究の結果では、頚椎―骨盤間距離の短縮率は姿勢による違いがなかったことが示唆された.このことにより、側臥位、座位の姿勢の違いが頚椎―骨盤間距離の短縮率に大きな影響を与えないことが考えられる.頚椎―骨盤間距離の短縮率とcobb角との間には有意な相関が認められ、短縮率が脊柱の変形の程度を反映する測定方法としての妥当性を有することが示唆された.短縮率は第7頚椎棘突起から骨盤までの距離を測定したものであり、胸椎や腰椎など部分的な変形を明確にすることはできない.しかし、短縮率はメジャーのみで測定できる簡便な方法であり、臨床的に応用しやすく有用性が高いと考えられる.今後は、症例数を増やして信頼性の検討が求められる.