著者
高橋 佳苗 長尾 能雅 足立 由起 森本 剛 市橋 則明 坪山 直生 大森 崇 佐藤 俊哉
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.11-20, 2011 (Released:2011-10-05)
参考文献数
27
被引用文献数
3 3

Objective:It is well known that the use of benzodiazepines is associated with falling in elderly people, but there have been few researches focused on changes in the dose of benzodiazepines and falls. If the association between changes in the dose of benzodiazepines and falling becomes clear, we may take an action to prevent falling.In this study, we investigated the association between changes in the dose of benzodiazepines and falling among elderly inpatients in an acute-care hospital.Design:Falling generally results from an interaction of multiple and diverse risk factors and situations, and medication history of each subject must be considered in this study. We conducted a case-crossover study in which a case was used as his/her own control at different time periods. Therefore covariates that were not time-dependent were automatically adjusted in this study.Methods:Subjects were patients who had falling at one hospital between April 1, 2008 and November 30, 2009. Data were collected from incident report forms and medical records. Odds ratio for changes in the dose of benzodiazepines were calculated using conditional logistic regression analyses.Results:A total of 422 falling by elderly people were eligible for this study. The odds ratio for increased amounts of benzodiazepines was 2.02(95% Confidence Interval(CI):1.15, 3.56). On the other hand, the odds ratio for decreased amounts of benzodiazepines was 1.11(95%CI:0.63,1.97).Conclusion:There was an association between increased amounts of benzodiazepines and falling. Hence, it is considered meaningful to pay attention to falling when amounts of benzodiazepines are increased to prevent falling in hospitals.
著者
永井 宏達 建内 宏重 井上 拓也 太田 恵 森 由隆 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C1390, 2008

【目的】これまで,筋機能の改善は,筋力増強に重きをおかれてきたが,近年,活動量だけでなく筋活動の開始時期が注目されている.先行研究では,腰痛の有無に着目し,腰痛群において主動作筋に対する体幹筋の筋活動開始時期が遅延するという報告もされているが,腰椎前彎の有無に着目して,筋活動開始時期への影響を調査した報告は見当たらない.本研究の目的は,腰椎前彎が下肢運動時における体幹筋の筋活動開始時期に及ぼす影響を明らかにすることである.<BR>【対象と方法】対象は健常成人男性9名(平均年齢23.1±2.9歳)とした.表面筋電図の測定にはNORAXON社製TeleMyo 2400を使用した.測定筋は,左側の内腹斜筋・腹横筋群(IO),腹直筋(RA),外腹斜筋(EO),多裂筋(MF),半膜様筋(SM),大殿筋(GM)とし,右SLR時の左体幹・下肢の筋電図を測定した.また,右SLRの主動作筋である大腿直筋(RF)も測定した.<BR>被検者の姿勢は仰臥位とし,LEDによる光刺激に対して,できるだけ速くSLRを行うように指示した.LEDは左右2光源あり,検者による口頭での合図の後,5秒以内に一方のライトを点灯させ,点灯した側の下肢を挙上するように指示した.挙上側は左右ランダムとした.条件は,安静臥位と他動的な腰椎前彎位の2条件とし,腰椎の前彎は,厚さ約4cmの砂嚢を腰椎とベッド間に挿入して設定した.各条件につき7回測定を行い,その内の5回のデータを採用した.各筋の筋活動が生じた時期は,ライト点灯以前での50msec間におけるRMS(Root Mean Square)の標準偏差の2倍の値を25msec間以上超えた時点とした.なお,SLRの主動作筋であるRFの筋活動開始時期を基準として,各筋の筋活動開始時期を算出した.統計処理には,反復測定分散分析,多重比較検定,対応のあるt検定を用いた.有意水準は5%未満とした.<BR>【結果と考察】<BR>分散分析の結果,各筋の筋活動開始時期には有意な差がみられた(p<0.01).安静位での筋活動開始の順番は,SM→EO=RF→RA=IO→MF→GMであった。腰椎前彎位ではSM→RF→EO=IO=RA→MF=GMであった.前彎条件にて,安静条件と比較してSMの筋活動開始時期が有意に早くなった(安静; -11.2±7.8msec,前彎; -18.2±11.4msec).またMFの筋活動開始時期が前彎条件にて有意に遅延した(安静; 22.6±15.5msec,前彎; 32.8±17.6msec).腹筋群では,前彎条件にて筋活動開始時期が遅延する傾向がみられた.本研究の結果より,腰椎が前彎位になることで,下肢運動時におけるMFの収縮が遅延することが示された.一方,SMは体幹筋群による骨盤の固定作用が遅延することの代償として,筋活動時期が早まる可能性が考えられた.したがって,腰椎の過度な前彎を呈している症例では,MFの動員が遅延して,脊柱の安定性に影響を及ぼしている可能性があることが示唆された.
著者
福谷 直人 任 和子 山中 寛恵 手良向 聡 横田 勲 坂林 智美 田中 真琴 福本 貴彦 坪山 直生 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1512, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腰痛は,業務上疾病の中で約6割を占める労働衛生上の重要課題であり,特に看護業界での課題意識は高い。近年では,仕事に出勤していても心身の健康上の問題で,労働生産性が低下するプレゼンティーイズムが着目されている。しかし,看護師の腰痛に着目し,急性/慢性腰痛とプレゼンティーイズムとの関連性を検討した研究はない。したがって,本研究では,看護師における急性/慢性腰痛がプレゼンティーイズムに与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】大学病院に勤務する看護師807名(平均年齢:33.2±9.6歳,女性91.0%)を対象に,自記式質問紙を配布し,基本属性(年齢,性別,キャリア年数),腰痛の有無,腰痛の程度(Numeric Rating Scale)を聴取した。腰痛は,現在の腰痛の有無と,現在腰痛がある場合,その継続期間を聴取することで,腰痛なし,急性腰痛(1日から3ヶ月未満),慢性腰痛(3ヶ月以上)に分類した。さらに,プレゼンティーイズムの評価としてWork Limitations Questionnaire-J(WLQ-J)を聴取した。WLQ-Jは,労働生産性を数値(%)で算出できる質問紙であり,“時間管理”“身体活動”“集中力・対人関係”“仕事の結果”の下位尺度がある。統計解析では,対象者を腰痛なし群,急性腰痛群,慢性腰痛群に分類し,Kruskal Wallis検定(Bonferroni補正)およびカイ二乗検定にて基本属性,WLQ-Jを比較した。次に,従属変数に労働生産性総合評価および各下位尺度を,独立変数に急性腰痛の有無,または慢性腰痛の有無を,調整変数にキャリア年数・性別を投入した重回帰分析を各々行った(強制投入法)。統計学的有意水準は5%とした。【結果】回答データに欠測のない765名を解析対象とした。対象者のうち,363名(47.5%)が急性腰痛,131名(17.1%)が慢性腰痛を有していた。単変量解析の結果,腰痛なし群に比べ,急性および慢性腰痛群は有意に年齢が高く,キャリア年数も長い傾向が認められた(P<0.001)。加えて,“労働生産性総合評価”“身体活動”“集中力・対人関係”において群間に有意差が認められた(P<0.05)。重回帰分析の結果,急性腰痛が労働生産性に与える影響は認められなかったが,慢性腰痛は“集中力・対人関係”と有意に関連していた(非標準化β=-5.78,標準化β=-1.27,P=0.016,95%信頼区間-10.5--1.1)。【結論】本研究結果より,看護師の慢性腰痛は“集中力・対人関係”低下と有意に関連することが明らかとなった。急性腰痛は,発症してから日が浅いため,まだ労働生産性低下には関連していなかったと考えられる。しかし,慢性腰痛では,それに伴う痛みの増加や,うつ傾向などが複合的に“集中力・対人関係”を悪化させると考えられ,慢性腰痛を予防することで労働生産性を維持していくことの重要性が示唆された。
著者
田畑 阿美 荒川 芳輝 梅田 雄嗣 坪山 直生 松島 佳苗 加藤 寿宏
出版者
The Japanese Society of Pediatric Hematology / Oncology
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.182-188, 2019 (Released:2019-09-10)
参考文献数
20

小児脳腫瘍は小児がんの中で白血病に次ぐ頻度で発症し,学習や社会経験の構築に重要な小児期に発症するため,治療中や治療後の復学は大きな課題の一つである.認知機能低下や社会不適応などが生じた小児脳腫瘍患者の報告もみられるが,国内における報告は少ない.今回,復学後の小児脳腫瘍患児の認知機能,生活の質(quality of life:以下QOL)および学校生活における適応行動に関して探索的に調査し,作業療法の立場からの支援の可能性を検討した.対象は京都大学医学部附属病院に通院中の復学後の6~16歳の小児脳腫瘍患児10名で,認知機能評価として日本版WISC-IV知能検査,QOL評価としてPediatric Quality of Life Inventory version 4.0日本語版コアスケールおよび,日本語版脳腫瘍モジュール,適応行動評価として旭出式社会適応スキル検査を実施した.合成得点の平均は全検査IQ 92.9±10.3で,認知機能の明らかな低下は認めず,QOLは比較的保たれている患児・家族が多かった.その一方で,40.0~90.0%の患児において認知機能の個人内差を認めた.過半数の患児において適応行動の低下を認め,特に日常生活スキル,対人関係スキルで低下していた.これらの結果から,作業療法による適応行動の改善を目指した支援が有効となることが期待される.さらなる症例集積から適切な支援方法の検討が必要である.
著者
永井 宏達 山田 実 上村 一貴 森 周平 青山 朋樹 市橋 則明 坪山 直生
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.84-89, 2011-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
19

【目的】姿勢制御エクササイズの反復が足関節周囲筋の同時活動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常若年者22名とし,介入群(11名)と対照群(11名)に無作為に分類した。不安定板上で10秒間姿勢を保持する課題を行い,その際の筋活動を前脛骨筋,ヒラメ筋より導出した。介入群には不安定板上での反復エクササイズを行い,その後不安定板上での評価を再度実施した。得られた筋電図波形より,同時活動の指標であるco-contraction index(CI)を求めた。【結果】介入群のCIは,エクササイズ後に有意に減少し,介入前50.7 ± 23.9%,介入後38.5 ± 22.0%であった。一方,対照群のCIには変化が認められず,介入前58.7 ± 23.9%,介入後60.9 ± 23.1%であった(p < 0.05)。【結論】不安定場面での同時活動は,姿勢制御エクササイズを行うことで減少する。このことは,姿勢制御エクササイズにより筋の過剰な同時活動が減少することを示唆している。
著者
加藤 典子 市橋 則明 坪山 直生
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0110, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】股関節内転筋群は恥骨筋、薄筋、長内転筋、短内転筋、大内転筋で構成され、非常に大きな容量をもち、また外転筋群の1、5倍の仕事量をもつとされている。しかし、内転筋群の機能や歩行に与える影響など運動学的に検討した報告は少ない。内転筋群は全て閉鎖神経支配であり、恥骨筋は大腿神経との2重神経支配である。今回、閉鎖神経を切除された2症例を経験し、内転筋群が股・膝関節筋力に与える影響と歩行などのADLに及ぼす影響を検討したので報告する。【症例紹介】A氏42歳 H.11卵巣癌と診断される。手術・放射線治療されるも再発繰り返し、H.14.11骨盤内臓器と共に右閉鎖神経切除される。B氏55歳 H.6子宮頚癌と診断される。手術・放射線治療されるも再発し、H.14.12骨盤内臓器と共に右閉鎖神経切除される。理学療法はそれぞれ手術後5日、13日後から開始し、Closed Kinetic Chain トレーニングを中心に、退院時までそれぞれ11週・9週間施行した。【評価】手術後A氏10週、B氏8週後に両下肢筋力を測定した。Power track (NIHON MEDIX社製)を使用し等尺性筋力を測定した。以下A氏、B氏の順で健側に対する%(健側比)で表す。股関節90度屈曲位での股関節屈曲筋力は88・78%であったが、股関節0度伸展位(膝屈曲位)での屈曲筋力は58・53%と大きく低下した。股関節伸展筋力は61・48%であったが、外転筋力は90・87%と比較的保たれていた。股関節90度屈曲位での外旋筋力は29・25%と最も低下し、股関節0度伸展位での外旋筋力は59・46%であった。一方、股関節内旋筋力は股関節90度屈曲位94・95%、0度伸展位100・89%とほとんど影響なかった。膝関節伸展筋力は87・62%、屈曲筋力は48・38%と低下していた。内転は軽度屈曲位で重力除去肢位において可能(MMT2レベル)ではあったが、測定不可能であった。股関節伸展位からの屈曲は手術後それぞれ19日後、32日後まで不可能であった。膝屈曲位保持は不安定であり、患側片脚ブリッジは退院時においても困難であった。歩行に関しては理学療法開始初期においてはつたい歩きレベルであり、右立脚期の短縮がみられたが、退院時には屋外歩行獲得可能となった。B氏にwide baseがみとめられた以外の破行はみられなかった。他のADLにおいても退院時には全て自立していた。【考察】本2症例の検討により、閉鎖神経が切除されてもほとんどADLに支障はなく、他の筋で代償可能であると考えられる。各筋力評価から、股関節内転筋は内転以外の作用として、股関節外旋(外閉鎖筋の関与も考えられるが)と股関節伸展位からの屈曲に重要な作用があると考えられた。膝関節筋力の低下がみられたことより、膝関節屈伸時の近位関節の固定筋として内転筋群の役割も重要であることが示唆された。
著者
永井 宏達 建内 宏重 高島 慎吾 遠藤 正樹 宮坂 淳介 市橋 則明 坪山 直生
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AeOS3002, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 肩関節に疾患を有する症例では,肩甲骨,鎖骨の動態に異常をきたしていることが多い.そのため,臨床場面では,セラピストが肩甲骨や鎖骨の動態を正確に把握し,適切な肩甲骨,鎖骨の運動を獲得することが重要である.一般に,肩関節疾患を有する患者における肩甲骨の異常運動としては,肩甲骨の内旋(外転),前傾,上肢挙上時の肩甲骨の挙上,下方回旋などが報告されており,上肢の挙上動作を行う上では障害となる.一方,肩甲骨の動態・アライメントに影響を及ぼす因子として,脊柱が後彎することで肩甲骨の前傾,内旋,下方回旋は生じやすくなるとされる.しかしながら,脊柱の回旋が肩甲骨,鎖骨の動態に及ぼす影響は明らかにはされていない.日常生活場面での上肢挙上動作には,体幹の回旋を伴っていることも多く,体幹回旋による影響を明らかにすることは臨床的に重要である.そしてこれらの情報は,より効果的な肩甲骨トレーニング開発の一助となると思われる.本研究の目的は,体幹回旋が上肢挙上時における肩甲骨・鎖骨の動態に及ぼす影響を明らかにすることである.【方法】 対象は健常若年男性19名(20.9±0.7歳)とし,測定側は利き手上肢とした.測定には6自由度電磁センサーLiberty (Polhemus社製)を用いた.5つのセンサーを肩峰,三角筋粗部,胸骨,鎖骨中央,S2に貼付し,肩甲骨,鎖骨,上腕骨の運動学的データを収集した.測定動作は,座位での両上肢挙上動作とし,矢状面において3秒で挙上し,3秒で下制する課題を実施した.測定回数は,体幹回旋中間位・体幹同側(測定側)回旋位・反対側(非測定側)回旋位でそれぞれ3回ずつとし,その平均値を解析に用いた.体幹の回旋角度は、それぞれ30°に規定した。なお、解析区間を胸郭に対する上肢挙上角度30-120°として分析を行い,解析区間内において10°毎の肩甲骨,鎖骨の運動学的データを算出した.なお,肩甲骨,鎖骨の運動角度は,胸郭セグメントに対する肩甲骨・鎖骨セグメントのオイラー角を算出することで求めた.肩甲骨は内外旋,上方・下方回旋,前後傾の3軸とし,鎖骨は鎖骨前方・後方並進,挙上・下制の2軸として解析を行った.統計処理には,各軸における肩甲骨・鎖骨の角度を従属変数とし,体幹の回旋条件(中間・同側・反対側),上肢挙上角度を要因とした反復測定二元配置分散分析を用いた.有意水準は5%とした.【説明と同意】 対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上,同意書に署名を得た.なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得ている.【結果】 上肢挙上時の肩甲骨の外旋は,体幹を同側に回旋することで有意に増大していた (同側回旋位>中間位>反対側回旋位,体幹回旋主効果: p<0.01) 。また、肩甲骨の上方回旋も、体幹を同側に回旋することで有意に増大していた(同側回旋位>中間位=反対側回旋位,体幹回旋主効果: p<0.01)。肩甲骨の後傾は体幹中間位よりも両回旋位の方が増大していた(同側回旋位=反対側回旋位>中間位,体幹回旋主効果: p<0.05)。一方、上肢挙上時の鎖骨の後方並進は体幹を同側に回旋することで有意に増大していた (同側回旋位>中間位>反対側回旋位,体幹回旋による主効果: p<0.01)。鎖骨の挙上は体幹を反対側に回旋をすることで有意に増大していた(反対側回旋位>中間位>同側回旋位,体幹回旋主効果: p<0.01) 。【考察】 本研究の結果,上肢挙上時に体幹を同側に回旋することで、肩甲骨は外旋,上方回旋が大きくなり,鎖骨は後方並進が大きく、挙上が小さくなることが明らかになった.体幹を反対側へ回旋させると、逆の傾向がみられた。これらの結果は,体幹の回旋状態が,肩甲骨の動態に影響を及ぼしていることを示唆している.体幹同側回旋に伴う,これら肩甲骨,鎖骨の動態は,肩関節疾患を有する患者にみられる異常運動とは逆の動態を呈していると思われる.体幹を同側に回旋することにより,肩甲骨が外旋方向に誘導され,肩甲骨周囲筋の筋力発揮が得られやすくなったことが影響している可能性がある.一方で、体幹を反対回旋した場合の上肢挙上時には、肩甲骨では上肢挙上には不利な方向へ運動が生じる傾向にあり、鎖骨では上肢挙上動作を代償する挙上運動が観察された。【理学療法学研究としての意義】 肩甲骨の内旋,下方回旋の増加,鎖骨後方並進の減少は,肩関節疾患を有する多くの患者に特徴的にみられる.また,上肢挙上時の過度な鎖骨の挙上も,僧帽筋上部線維による代償的な肩関節挙上動作として多くみられる.これらの特徴を有する症例に対しては,体幹の回旋も取り入れながらプログラムを実施することで,正常に近い肩甲骨運動を促通し,より効果的に理学療法を進められる可能性がある.
著者
松永 梓 大畑 光司 矢野 生子 橋本 周三 南 純恵 中 徹 坪山 直生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P1286, 2009

【目的】脳性麻痺者が有する変形の一つに脊柱側弯が挙げられる.脊柱側弯が脳性麻痺者に及ぼす影響として、座位、立位の不安定、摂食嚥下障害、呼吸障害、消化器系の障害、痛み、ROM制限等様々な障害が挙げられる.脊柱側弯の重症度を示す指標としてcobb角が用いられる.cobb角の測定にはX-p画像より測定する必要があるため、臨床的に容易に測定することはできない.したがって、脊柱の変形を容易に測定する方法を確立することの重要性は高いと考えられる.本研究の目的は、頚椎と骨盤との距離の短縮率を求め、その短縮率とcobb角との関係を検討することである.<BR>【対象】重症心身障害児・者施設に入所中の成人脳性麻痺者13名(男性8名、女性5名、平均年齢36.4±7.1歳)を対象とした.本研究に参加するにあたり、保護者の文書による同意を得て行った.<BR>【方法】第7頚椎棘突起から両側上後腸骨棘を結ぶ線の中心までの距離を頚椎―骨盤間距離とし、2点間を脊柱に沿って計測したものと、2点間の直線距離の2つの長さを求めた.2点間の直線距離を脊柱に沿って計測した距離で除したものを頚椎―骨盤間の短縮率とし、姿勢による差異を検討するため、側臥位と座位とでの短縮率を計測した.cobb角の値はCT画像より胸椎レベルと腰椎レベルに分けて測定し、その合計を代表値として求めた.統計処理として、姿勢の違いによる短縮率の差を対応のあるt検定を用いて比較した.また、それぞれの姿勢での短縮率とcobb角との関係をpearsonの相関係数を求めて調べ、有意水準を5%未満とした.<BR>【結果】頚椎―骨盤間距離の短縮率は側臥位と座位とで有意な差が認められなかった.側臥位と座位における短縮率とcobb角との間に有意な相関(側臥位:r=-0.57、p<0.05、座位:r=-0.68、p<0.01)が認められた.<BR>【考察】本研究の結果では、頚椎―骨盤間距離の短縮率は姿勢による違いがなかったことが示唆された.このことにより、側臥位、座位の姿勢の違いが頚椎―骨盤間距離の短縮率に大きな影響を与えないことが考えられる.頚椎―骨盤間距離の短縮率とcobb角との間には有意な相関が認められ、短縮率が脊柱の変形の程度を反映する測定方法としての妥当性を有することが示唆された.短縮率は第7頚椎棘突起から骨盤までの距離を測定したものであり、胸椎や腰椎など部分的な変形を明確にすることはできない.しかし、短縮率はメジャーのみで測定できる簡便な方法であり、臨床的に応用しやすく有用性が高いと考えられる.今後は、症例数を増やして信頼性の検討が求められる.
著者
鈴木 祐介 福谷 直人 田代 雄斗 田坂 精志朗 松原 慶昌 薗田 拓也 中山 恭章 横田 有紀 川越 美嶺 浅野 健一郎 篠原 賢治 坪山 直生 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1640, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】腰痛は職業性疾病の中で約6割を占める。また,腰痛が慢性化することで従業員の労働生産性が低下するという報告もあり,従業員の慢性腰痛の予防は企業の健康経営における重要課題の一つである。しかし,慢性腰痛の関連因子を調査した多くの研究は,質問紙調査を基にしており,実測による身体機能を調査した研究は少ない。そのため,先行研究で言及されている精神的因子や睡眠障害の因子に加え,実測での身体機能の因子を含めた慢性腰痛の包括的な関連因子の調査は不十分と言える。従って本研究では,オフィスワーカーにおける慢性腰痛に関連する因子を,身体機能面,精神機能面の両者から包括的に検討することを目的とした。【方法】対象は,A企業で実施した腰痛検診に参加したオフィスワーカー601名(平均年齢44.3±10.1歳,男性72%)とした。対象者に自記式質問紙を配布し,基本属性(年齢,性別,勤続年数),腰痛の有無を,精神機能として睡眠時間の満足感,抑うつ傾向を反映するSelf-rating Depression Scale(SDS)を聴取した。腰痛は,現在の腰痛の有無と,現在腰痛がある場合その継続期間を聴取することで,慢性腰痛無し群,慢性腰痛有り群(発症3ヶ月以上)に分類した。さらに身体機能として,握力,30秒立ち上がりテスト,立位体前屈,閉眼片脚立ちを計測し,姿勢評価としてPalpation meter(Performance Attainment Associates社製)を使用し,骨盤の前後傾斜角度を計測した。統計解析は,従属変数に慢性腰痛の有無を,独立変数に身体機能・精神機能に関連した各測定変数を,調整変数に性別・年齢を投入したロジスティック回帰分析を行った。統計学的有意確率は5%未満とした。【結果】回答データに欠損のない487名を解析対象とした。対象者のうち,136名(28%)が慢性腰痛を有していた。ロジスティック回帰分析の結果,立位体前屈値(オッズ比(OR)0.966,P=0.003,95%信頼区間(CI)0.945-0.989),睡眠時間の満足感(時間が足りず不眠に該当:OR2.342,P=0.002,95%CI1.357-4.042,寝つきが悪いに該当:OR2.345,P=0.01,95%CI1.223-4.495)が,慢性腰痛と有意に関連していることが明らかになった。【結論】本研究結果より,オフィスワーカーの慢性腰痛は,身体柔軟性の低下,睡眠時間の満足感の低下と有意に関連することが明らかになった。オフィスワーカーは他の職種と比較して,同一姿勢を取り続ける時間や,VDT(Visual Display Terminals)作業の時間が,相対的に長くなることが関与していると考えられる。今後は縦断的な解析を進め,本研究で得られた因子と慢性腰痛発生との関連を検討していく必要がある。
著者
西口 周 青山 朋樹 坪山 直生 山田 実 谷川 貴則 積山 薫 川越 敏和 吉川 左紀子 阿部 修士 大塚 結喜 中井 隆介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】一般的に,加齢に伴う脳萎縮などの脳の器質的変化が,アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)や軽度認知機能障害(mild cognitive impairment:MCI)の発症リスクを高めるとされている。また,ワーキングメモリ(working memory:WM)低下はADやMCIの前駆症状であり,認知機能低下と共にWMに関連する脳領域の活動性が低下すると報告されている。つまり,ADやMCIの発症を予防するためには,WM関連領域の脳活動を高め,脳萎縮を抑制することが重要であると予想されるが,脳萎縮とWMに関連する脳活動の関連性はまだ十分に検証されていない。そこで本研究では,地域在住高齢者における脳萎縮とWM課題中の脳活動との関連性を機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)を用いて明らかにすることを目的とした。【方法】対象は地域在住高齢者50名(73.5±5.2歳,男性27名,女性23名)とした。Mini-Mental State Examination(MMSE)<24点の者,重度な神経学的・整形外科的疾患の既往を有する者は除外した。全ての対象者のWM課題中のfMRI画像及び構造MRI画像は3.0TのMRI装置(シーメンス社MAGNETOM Verio)にて撮像した。WM課題としてはブロックデザインを用いて,画面上に映る点の位置がひとつ前の点の位置と一致するかを問う1-back課題と,画面上に映る点の位置が中心かどうかを問う0-back課題を交互に8ブロック行なった。また,構造MRI画像をVSRAD advanceにより処理し,対象者の脳全体における定量的な灰白質萎縮割合を算出した。統計解析は,統計処理ソフトウェアSPM8を用いてfMRIデータを処理した後,1-back課題と0-back課題のサブトラクションを行ない,WM課題中の脳活動部位を同定した。続いて,相関分析にて脳萎縮割合とWM課題中の脳活動部位の関連性を検討した。なお,WFU PickAtlasを用いて,解析範囲を前頭前野,内側側頭葉に限定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当該施設の倫理委員会の承認を得て,紙面および口頭にて研究の目的・趣旨を説明し,署名にて同意を得られた者を対象とした。【結果】本研究の対象者のMMSEの平均値は,27.5±1.9点であった。WM課題において,右の海馬,海馬傍回を中心とした領域,両側の背外側前頭前皮質(Brodmann area:BA9),右の下前頭回(BA45)を中心とした領域に賦活がみられた(p<0.005,uncorrected)。また,脳萎縮割合と関連がみられたWM課題中の脳活動部位は,両側海馬及び両側の背外側前頭前皮質(BA9),右前頭極(BA10)を中心とした領域であった(p<0.005,uncorrected)。なお,これらの関連性は負の相関を示しており,脳萎縮が小さいほど上記の領域の脳活動量が大きいという関連性が認められた。【考察】本研究の結果により,脳萎縮の程度が低いほど,視空間性WM課題中の海馬,背外側前頭前皮質を中心とした領域の脳活動が高いことが示唆された。視空間性WMは前頭前野や海馬の灰白質量と関連すると報告されており,本研究はそれを支持する結果となった。海馬を含む内側側頭葉は記憶機能の中枢であり,一方,背外側前頭前皮質はWMを主とする遂行機能を担う領域とされており,双方ともにともに加齢による影響を受け,萎縮が強く進行する領域であると報告されている。つまり,これらの領域の活動が低下し萎縮が進行することが,記憶機能や遂行機能の低下を主とする認知機能低下を引き起こし,ADやMCIの発症リスクを高める要因の一つになりうると考えられる。今後は,二重課題や干渉課題といったWMの要素を取り入れた複合的な運動介入を行ない,関連領域の脳活動を高めることで,脳萎縮を抑制できるかどうかを検証していく必要があると考える。本研究は横断研究のため脳萎縮と脳活動の因果関係は不明であり,また脳の詳細な萎縮部位は同定していないことが本研究の限界であると考える。今後は,詳細かつ縦断的研究を行なうことが検討課題である。【理学療法学研究としての意義】高齢者の認知機能低下を抑制することは,近年の介護予防戦略において重要な役割を担っている。本研究の結果により,脳萎縮の程度には記憶や遂行機能に関連する領域の脳賦活が関連することが示された。本研究を発展させることで,脳萎縮や認知機能低下抑制を目的とした非薬物療法のエビデンスを構築するための一助となると考えられる。
著者
近藤 勇太 建内 宏重 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1368, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】大腰筋は股関節及び腰椎の運動や安定化に働く筋であり,アスリートや股関節・腰椎の疾患をもつ患者においてその機能改善は重要である。臨床においては,大腰筋は座位での股関節屈曲など股関節の運動でトレーニングを行うことが多いが,大腰筋は腰椎の運動でも活動するため,股関節に障害を有し,股関節運動が困難な患者において,体幹運動を利用することで大腰筋の機能改善を図れる可能性がある。しかし,大腰筋は身体の深部に位置し,針筋電図など侵襲的な方法による調査が必要であるため報告が少なく,股関節運動と体幹運動とでそれぞれどの程度の筋張力発揮があるか明確ではない。そこで本研究では,筋の弾性率と筋張力が比例するという先行研究に基づき,非侵襲的に生体組織の弾性率を測定できるせん断波エラストグラフィー機能を用いて,大腰筋の弾性率を測定することで,股関節屈曲時と体幹運動時での大腰筋の筋張力の比較を行い,体幹運動で大腰筋がどの程度活動するのかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象は下肢・腰部に整形外科的疾患を有さない健常男性19名(年齢22.1±1.5歳)とし,右側の大腰筋を測定した。課題は座位での股関節屈曲の等尺性収縮運動と座位保持とした。座位姿勢は足底に厚さ1cmの板を敷いた状態で股関節屈曲角度が45°になるよう座面の高さを設定し,下腿と体幹は床面に対し鉛直となるようにした。骨盤の側方傾斜・後傾を防ぐため,バンドを用いて骨盤を固定した。上肢は腕を胸の前で組んだ姿勢とした。測定前に最大股屈曲筋力を2回測り,その平均値を最大筋力とした。測定課題は,股屈曲運動として,上記の座位で板を外し,足底を床からわずかに離した状態(股屈曲45°位)での保持(股屈曲)と,その肢位で股屈曲最大筋力の10%の負荷での等尺性収縮運動(10%屈曲)を行った。なお,我々の先行研究により,最大筋力の10%負荷までは筋張力と弾性率との線形関係が確認されている。加えて,針筋電図で活動が確認されている体幹の前屈,後屈,側屈の体幹運動を測定した。体幹運動は,座位で腋窩下にバンドを巻き,後・前・左の3方向から,測定者が被験者の体重の10%の負荷をかけ引き,それに対して座位を保持させた。測定は,股屈曲運動と体幹運動の計5種類(全て股屈曲45°位)とした。負荷量については,力センサ(Kistler社製)を股関節屈曲時には膝蓋骨近位5cm,体幹運動時には腋窩下で接続し,リアルタイムで可視化し確認しながら測定を行った。大腰筋の弾性率(kPa)の測定には,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製Aixplorer)のせん断波エラストグラフィー機能を用いた。測定部位は鼠径靭帯の遠位部とし,超音波画像が安定してから記録した。疲労を考慮して,各課題の測定順は無作為とし,各3回ずつ測定を行った。超音波画像での弾性率の測定は,大腰筋内に関心領域を2か所設定し,各領域の弾性率の平均値を求め,さらに3試行を平均した数値を解析に用いた。各条件間の比較を対応のあるt検定およびShaffer法による補正を用いて行った。有意水準は5%とした。【結果】大腰筋の弾性率は,股屈曲で13.7±2.5kPa,10%屈曲で15.0±3.3kPaとなり,前屈で15.6±3.4kPa,後屈で14.7±3.1kPa,側屈で16.5±3.7kPaとなった。解析の結果,股屈曲に対して10%屈曲(p=0.03),側屈(p=0.04)で有意に高値となった。しかし,体幹運動の条件間および10%屈曲と体幹運動の間では有意差を認めなかった。【考察】本研究の結果,股屈曲角度45°位において,体重の10%の負荷に対して右側屈方向に力を発揮して座位を保持する運動が,負荷を加えない股屈曲運動よりも大腰筋の筋張力を増加させ,またそれは最大筋力の10%の負荷での股屈曲運動と同程度であることが判明した。本研究結果は,股関節での運動が困難な患者で大腰筋の筋張力を得たい場合や,大腰筋以外の股屈筋をできるだけ働かせずに大腰筋の選択的なトレーニングを行うために体幹運動を実施する場合などに,有用な知見であると思われる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,股関節屈曲と体幹運動時の大腰筋の筋張力の比較を非侵襲的方法により行った初めての報告であり,大腰筋の評価・トレーニングにおいて重要な知見を提供するとともに,臨床応用への可能性を示唆するものである。
著者
小栢 進也 池添 冬芽 坪山 直生 市橋 則明
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.81-85, 2009 (Released:2009-04-01)
参考文献数
20
被引用文献数
7 5

〔目的〕若年者と高齢者を対象に不安定板および安定した支持面上での立位姿勢制御能力を比較した。〔対象〕若年者14名と施設入所高齢者10名を対象とした。〔方法〕不安定板上で20秒間立位を保持させた時の前後角度変動域,総角度変動,前後変位を測定した。前後角度変動域は角度変動の大きさ,総角度変動は変動した角度の総量,前後変位は平均的な傾斜角度を表す。また重心動揺計を用いて静止立位時の重心動揺面積,総軌跡長,前後方向中心変位および前後随意重心移動距離を計測した。〔結果〕若年者は総角度変動および前後随意重心移動距離のみ高齢者よりも有意に高い値を認めた。〔結語〕高齢者は不安定板の傾斜調整や最大重心移動のような随意的な姿勢制御能力が低下することが示唆された。
著者
水上 優 建内 宏重 近藤 勇太 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0088, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腸腰筋は股関節屈曲の主動作筋であり,股関節疾患をもつ患者においてその機能改善は重要である。従来,腸腰筋は侵襲的な方法でしか測定できないとされ,その作用に関する報告は限られていたが,近年,表面筋電図での測定が可能であるとの報告がされた。本研究の目的は,股関節の運動方向が腸腰筋を含む股関節屈筋の筋活動に与える影響を筋電図学的に分析し,腸腰筋の筋作用と他の股関節屈筋と比べ選択的に活動する運動方向を明らかにすることである。【方法】対象者は健常男性20名(年齢22.7±2.6歳)とした。課題は背臥位での等尺性股関節屈曲運動とし,基本肢位は両膝より遠位をベッドから下垂した背臥位で,股関節以遠を10°傾斜させ股関節伸展10°とした。測定筋は利き足の腸腰筋(IL),大腿直筋(RF),大腿筋膜張筋(TFL),縫工筋(SA),長内転筋(AL)の5筋とした。ILの電極貼付部位は鼠径靭帯の遠位3cmとし,超音波画像診断装置(フクダ電子製)で筋腹の位置を確認し電極を貼付した(電極間距離12mm)。筋活動の測定は筋電図計測装置(Noraxon社製)を用いた。各筋の最大筋活動を測定した後,各課題での測定を無作為な順序で行った。課題は,股関節屈曲0°,内外転・内外旋中間位での保持(屈曲),同肢位で大腿遠位に内側または外側から負荷を加えた状態での保持(各屈曲・外転,屈曲・内転),同肢位で下腿遠位に内側または外側から負荷を加えた状態での保持(各屈曲・外旋,屈曲・内旋)の計5種類とした。負荷には伸長量を予め規定した(3kg)セラバンドを用いた。各筋とも各課題中の3秒間の筋活動を記録した。ILの3試行の平均筋活動を最大筋活動で正規化した値(%MVC)と,ILの%MVCを5筋の%MVCの総和で除した筋活動比にILの%MVCを乗じた値を選択的筋活動指数と定義し,解析に用いた。統計解析には,一元配置分散分析およびBonferroni法を用い,ILの5種類の運動時の筋活動と選択的筋活動指数を比較した(有意確率5%)。【結果】ILの筋活動は,屈曲・外転(21.6:%MVC)が他のどの運動よりも有意に大きく,屈曲(18.6)は屈曲・内転(14.9)よりも有意に大きかった。屈曲・内転,屈曲・外旋(15.9),屈曲・内旋(16.1)の間には有意差が無かった。選択的筋活動指数は,屈曲・外転(7.9)が,屈曲(6.5)を除く全ての運動で有意に高かった。屈曲は屈曲・内転(4.3),屈曲・内旋(3.8)よりも有意に高かった。屈曲・内転,屈曲・外旋(4.8),屈曲・内旋の間には有意差は無かった。【結論】本研究の結果,ILは屈曲・外転で他の運動方向よりも有意に筋活動が大きくなり,また屈曲・外転や屈曲が他の運動方向よりも選択的に筋力発揮しやすい傾向を示した。本研究結果は,腸腰筋の選択的な運動を行う際に有用な知見であると考えられる。
著者
永井 宏達 市橋 則明 山田 実 竹岡 亨 井上 拓也 太田 恵 小栢 進也 佐久間 香 塚越 累 福元 喜啓 立松 典篤 今野 亜希子 池添 冬芽 坪山 直生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E2S2007, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】加齢に伴い、筋力、バランス機能、柔軟性、敏捷性といった運動機能の低下がみられ、特に、バランス機能は加齢による低下が顕著であるとされている.近年、高齢者に対するバランストレーニング効果に関する報告が散見されるが、ゆっくりとした動きでのバランストレーニングと素早い動きでのバランストレーニングのどちらの動作速度でのバランストレーニングが効果的であるかは明らかではない.そこで本研究は、施設入所高齢者に対して素早い動きのバランストレーニング(RBT)と、ゆっくりとした動きのバランストレーニング(SBT)の二種類を実施し、その効果の違いを明らかにすることを目的とした.【対象と方法】対象はケアハウスに入所している高齢者41名(男性5名、女性36名、平均年齢:81.9±6.8歳)とし、RBT群(17名:80.8±7.0歳)とSBT群(24名:82.5±6.7歳)に対象者を分類した.なお、対象者には研究についての説明を行い、同意を得た.バランストレーニングとして、片脚立位、前方・左右へのステップ動作、椅子からの立ち上がりなどからなる20分程度の運動プログラムを週2回、8週間実施した.これらのトレーニングを、RBT群には、バランスを保ちながらできるだけ素早く特定の姿勢をとらせ、その後姿勢を保持するようにし、SBT群にはゆっくりとした動きで特定の姿勢まで移行させるように指導した.なお、2群のそれぞれの運動回数および運動時間は統一した.バランス能力の評価として、開眼・閉眼片脚立位保持時間、立位ステッピングテスト(5秒間での最大ステップ回数)、静止立位時の重心動揺面積(RMS)、前後・左右方向の最大随意重心移動距離をトレーニング前後に測定した.2群間のトレーニング効果を比較するために、反復測定二元配置分散分析を行った.【結果と考察】2群間のベースラインのバランス機能に有意差はみられなかった.二元配置分散分析の結果より、トレーニング前後で主効果がみられたバランス項目は、立位ステッピングテストであった(p<.05).このことから、立位でのステップ動作は、バランストレーニングを行う動作速度にかかわらず改善することが明らかになった.また、前後方向の最大随意重心移動距離に交互作用がみられたため (p<.05)、RBT群、SBT群それそれで対応のあるt検定を行った結果、RBT群においてはトレーニング後に前後方向の最大随意重心移動距離の有意な改善がみられたが(p<.05)、SBT群では変化がみられなかった.本研究の結果より、施設入所高齢者においては、素早い動きを伴うようなバランストレーニングを行う方がより多くのバランス機能を改善させる可能性が示唆された.【結語】施設入所高齢者におけるバランス機能向上には、素早い動きのトレーニングが有用である可能性が示唆された.
著者
近藤 勇太 建内 宏重 水上 優 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0406, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腸腰筋は股関節屈曲の主動作筋だが,下肢疾患患者では特異的に筋機能が低下することが多く,選択的トレーニングが求められる。これまで選択的トレーニングに関する研究は運動方向に関しての検討が主だったが,他関節において,負荷量を上げた際に各筋の筋活動は一様に増加しないという報告がある。股関節も同様の傾向があると考えられ,選択的な腸腰筋のトレーニング法を検討するには運動方向だけでなく,股関節屈曲トルク増加に伴う各股関節屈筋の筋活動の変化も検討する必要がある。また近年,表面筋電図で腸腰筋の筋活動が測定可能との報告があり,非侵襲的に筋活動の測定が可能となった。本研究の目的は,股関節屈曲トルク増加に伴い各股関節屈筋の筋活動・筋活動比がどのように変化するか明らかにすることである。【方法】対象は健常成人男性17名とした。課題は等尺性股関節屈曲運動とし,測定肢位は両膝より遠位をベッドから下垂した背臥位とした(股関節内外転・内外旋中間位)。測定筋は利き脚の腸腰筋(IL)・大腿直筋(RF)・大腿筋膜張筋(TFL)・縫工筋(SA)・長内転筋(AL)の5筋とした。ILの電極貼付部位は鼠径靭帯の遠位3cmとし,超音波診断装置(フクダ電子製)で筋腹の位置を確認し電極を貼付した(電極間距離12mm)。筋活動の測定は筋電図計測装置(Noraxon社製)を用いた。各筋の最大筋活動を測定した後,大腿遠位に徒手筋力計(酒井医療製)を設置し,ベルトで大腿を含め固定した。最初に最大股関節屈曲トルクを測定し,その10%,20%,30%,40%,50%MVCを発揮した際の3秒間の各筋の筋活動を記録した。各筋の3試行の平均筋活動を最大筋活動で正規化した値(%筋活動)と,各筋の%筋活動を5筋の%筋活動の総和で除した筋活動比を解析に用いた。統計解析は,一元配置分散分析およびBonferroni法を用いて10%,20%,30%,40%,50%MVCでのトルク発揮時の各筋の筋活動と筋活動比を比較した。【結果】IL・TFLの%筋活動は10%(25.0・9.3:平均値)に対し20%(31.5・12.4),20%に対し30%(37.4・16.1)で有意に増加したが,30%と40%(43.5・19.4),40%と50%(48.9・22.6)は有意差が無かった。一方RFは10%(6.5)に対し20%(10.6),20%に対し30%(17.0),30%に対し40%(22.6)で有意に増加したが,40%と50%(25.4)は有意差が無かった。SA・ALは50%まで有意に%筋活動が増加した。またILの筋活動比は10%(0.37)が20%(0.32)以外と比べ有意に高値となり,20%が30%(0.30)以外と比べ有意に高値となった。RF・TFL・SAの筋活動比には有意差が無く,ALは10%(0.11)がそれ以外と比べ有意に低値となった。【結論】本研究の結果,股関節屈曲トルクが低負荷から中等度の負荷まで増加する場合,SAやALは線形に筋活動が増加するが,ILやTFLは比較的低負荷の範囲しか筋活動が増加せず,またILの筋活動比は低負荷であるほど高い値を示した。本研究結果は,腸腰筋トレーニングを実施する際に有用な知見である。
著者
荒井 秀典 長尾 能雅 森本 剛 坪山 直生
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.36-38, 2011 (Released:2011-03-03)
参考文献数
4

入院中の転倒・転落により骨折や重大な外傷を生じたり,転倒への恐れから活動性の低下を招いたりすることは高齢者,特に虚弱高齢者で多く発生するため,対策が必要である.京大病院においては平成18年4月に転倒転落事故防止委員会を発足し,院内の転倒・転落事故に対する分析及び対策を行ってきた.また,院内環境・病棟対策班,データ収集・分析・アセスメントスコアシート評価班,院内広報班,事例調査班を作ることにより,転倒・転落原因の調査・分析,およびその対策を講じるとともに,患者への啓発活動を行ってきた.また,入院患者の転倒リスク評価を行い,低・中・高リスクに分類し,その実際の院内転倒・転落事故との関連を分析した.本稿においては本委員会の活動内容を示すとともに,大学病院など急性期病院における転倒予防について述べたい.