著者
大戸 茂弘 小柳 悟 松永 直哉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.115-119, 2011 (Released:2011-03-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

社会の少子化および高齢化が進む中で,集団の医療から個の医療へとその重点が移りつつある.現在,個体間変動要因の代表例である遺伝子多型に関する研究およびその治療への応用は確立されつつあるが,遺伝子診断のみでは説明できない現象もある.従って,医薬品適正使用のさらなる充実を図るには,個体間変動のみならず個体内変動に着目した研究の充実は必至である.こうした状況の中で,投薬時刻や投薬タイミングにより薬の効き方が大きく異なることがわかってきた(時間薬理学:chronopharmacology).また薬の効き方を決定する薬の体内での動き方や薬に対する生体の感じ方も生体リズムの影響を受ける.従って投薬タイミングを考慮することにより医薬品の有効性や安全性を高めることも可能となる(時間治療学:chronotherapy).最近では,医薬品の添付文書などに服薬時刻が明示されるようになってきた.生体リズム調整薬のみならず生体リズムを考慮した時間制御型DDS(chrono-drug delivery system)や服薬時刻により処方内容を変更した製剤が開発されている(時間薬剤学:chronopharmaceutics).その背景には時計遺伝子に関する研究の発展があげられる.すなわち,時計遺伝子が,睡眠障害,循環器疾患,メタボリックシンドローム,がんなどの疾患発症リスクおよび薬物輸送・代謝リズムに深く関わっていることがわかってきた.