著者
大戸 茂弘 小柳 悟 松永 直哉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.115-119, 2011 (Released:2011-03-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

社会の少子化および高齢化が進む中で,集団の医療から個の医療へとその重点が移りつつある.現在,個体間変動要因の代表例である遺伝子多型に関する研究およびその治療への応用は確立されつつあるが,遺伝子診断のみでは説明できない現象もある.従って,医薬品適正使用のさらなる充実を図るには,個体間変動のみならず個体内変動に着目した研究の充実は必至である.こうした状況の中で,投薬時刻や投薬タイミングにより薬の効き方が大きく異なることがわかってきた(時間薬理学:chronopharmacology).また薬の効き方を決定する薬の体内での動き方や薬に対する生体の感じ方も生体リズムの影響を受ける.従って投薬タイミングを考慮することにより医薬品の有効性や安全性を高めることも可能となる(時間治療学:chronotherapy).最近では,医薬品の添付文書などに服薬時刻が明示されるようになってきた.生体リズム調整薬のみならず生体リズムを考慮した時間制御型DDS(chrono-drug delivery system)や服薬時刻により処方内容を変更した製剤が開発されている(時間薬剤学:chronopharmaceutics).その背景には時計遺伝子に関する研究の発展があげられる.すなわち,時計遺伝子が,睡眠障害,循環器疾患,メタボリックシンドローム,がんなどの疾患発症リスクおよび薬物輸送・代謝リズムに深く関わっていることがわかってきた.
著者
大戸 茂弘
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2017-06-30

野生型WTマウスまたはDrug A受容体KOマウスを行動解析装置に7日間飼育した後、明期を8時間前進させ明暗周期サイクルの変化に対する行動シフトに及ぼすDrug A受容体欠損の影響を検討した。Drug A受容体欠損マウスでは、明暗周期変動に対する行動リズム変化が野生型と比較し遅延していた。両マウスを行動解析装置に7日間飼育した後、明期を8時間前進させ、その後、恒暗条件下で飼育した際の行動の変化に及ぼすDrug A受容体欠損の影響を検討した。Drug A受容体欠損マウスでは、恒暗条件下の行動リズム周期が野生型と比較し長いことからSCNに存在する時計遺伝子の発現リズムに何らかの機能的変化が生じていると考えられる。両マウスSCNの時計遺伝子をIn situ hybridization法を用い測定した結果、時計遺伝子のCry1の発現リズムが変容していた。両マウスを行動解析装置に7日間飼育した後に、常に照明をOFFにした恒暗条件下で飼育した自律的行動リズムの位相と周期に及ぼすDrug A点眼時刻の影響を検討した。両マウスにDrug AをCT14に点眼し、自律的行動リズムに及ぼす影響を確認した結果、WTマウス行動リズムはDrug AのCT14点眼により位相が後退したが、Drug A受容体KOマウスにおいてはその効果は認められなかった。恒暗条件下の行動リズムに及ぼすDrug A点眼により行動リズムの周期が変容したことから、時計中枢SCNの時計遺伝子Per1、Per2発現量に及ぼすDrug Aの影響を検討した。野生型ではDrug A点眼後にSCNのPer1、Per2の発現量が変容したが、Drug A受容体KOマウスでは影響しなかった。恒暗条件下飼育マウスに光を照射する条件またはDrug A点眼後に光照射を併用する条件下、SCNの時計遺伝子発現量に及ぼすDrug A受容体ノックアウトの影響を検討した。野生型マウスでは発現量が変化していたが、Drug A受容体KOマウスでは顕著でなかった。
著者
小柳 悟 大戸 茂弘
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.418-423, 2017-11-25 (Released:2018-02-25)
参考文献数
19

ヒトを含む哺乳類動物のさまざまな生体機能には24時間を1周期とする変動(概日リズム)が認められる。このような概日リズムの本体は、時計遺伝子群によって構成される転写・翻訳のフィードバックループ機構であり、個々の細胞レベルで各臓器や組織の機能に応じたリズムを発振している。マウスやラットなどを対象にした最近の研究成果から、時計遺伝子はチトクロームP450やトランスポーターの発現にも影響を及ぼし、薬物の吸収や代謝に時刻依存的な変動を引き起こしていることが明らかになってきた。しかしながら、マウスなど夜行性の動物から得られたデータを基に、昼行性であるヒトの薬物動態の概日リズムを推測することは困難であり、この問題を解決するには両種間における制御メカニズムの相違点の解析とその体系化が重要になる。本稿では薬物代謝酵素やトランスポーターの発現における概日変動メカニズムの種差について概説し、夜行性動物と昼行性動物における制御機構の違いについて述べる。
著者
末松 文博 湯川 栄二 峯本 正夫 湯川 美穂 大戸 茂弘 樋口 駿 後藤 良宣
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.426-431, 2001-10-10 (Released:2011-03-04)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

The steady-state concentrations of digoxin at trough levels were studied to establish the role of infant characteristics in estimating the doses for digoxin based on routine therapeutic drug monitoring data. The data (n = 340) which showed a steady-state after repetitive oral administration in 147 hospitalized infants were analyzed using NONMEM, a computer program designed to analyze the pharmacokinetics in study populations by allowing for the pooling of data. An analysis of the pharmacokinetics of digoxin was accomplished using a simple steady-state pharmacokinetic model. The effects of a variety of developmental and demographic factors on the clearance of digoxin were investigated. Estimates generated using NONMEM indicated that the clearance of digoxin (L/hr/kg) was influenced by the demographic variables of age, the daily dose, serum creatinine, the presence or absence of congestive heart failure, and the coadministration of spironolactone in infants. The interindividual variability in the clearance of digoxin was modeled using proportional errors with an estimated coefficient of variation of 30.2%, while the residual variability was 28.2%.