著者
松永 順夫
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.20-26, 1974-06-25 (Released:2010-03-09)
参考文献数
6

1) 海水中の大腸菌群最確数 (これをMPNと呼ぶ) は経時的にも, また場所 (去岸距離別, 地理的, 水深別) によるわずかな違いによっても著しい差が生じた。2) MPNの経時的な変化は潮位と気象の経時的変化の影響と見られた。3) MPNは風波やCODと相関し, 風波で海底土が舞い上るにつれてCODとMPNの値が高くなった。4) MPNは風波の静かな時には潮位と負の相関をし, 干潮時に多く, 満潮時には少なかった。5) 海水中のMPNは沖合に行くにつれて減少し, 沖合1km以遠にはほとんどないが, 海底土中には3km以遠でも認められた。6) 河川水中のMPNは上流に少なく, 下流に多い傾向がある。しかし, 河口付近 (200m以内) の海水中や河口からの距離が遠ざかるにつれての傾斜的な減少傾向が見られなかった。7) 海水中に流入した大腸菌群の消長については急激な減少傾向が見られ, 3時間以内にほぼ全滅することが確認された。ただし, 1%ペプトン加海水や有機性汚濁物質を含む海水中では大腸菌群はむしろ増殖した。8) 海へ流入した大腸菌群のごく一部は海水中でも生存し, 特に有機性汚物の多い海底土中には多数の存在が認められた。しかし, 海水や海底土中に有機性汚濁物質がない場合には全く大腸菌群の存在が見られなかった。9) 上記のことから, 海水中のMPNを指標にした海水の汚染度調査および水質判定は充分可能である。ただし, 海水中の大腸菌群のMPNは陸水から海への大腸菌群の流入量を直接表わしていない。10) 本検査結果は, 海水中の大腸菌群の生存とする資料としての価値が高い。繁殖をどの程度許容する海洋環境であるかを判定