著者
松野 一彦 小山 稔
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.467-474, 1991 (Released:2009-03-12)
参考文献数
11
被引用文献数
2

血小板が動脈硬化の進展や血栓症の発症に関わっていることは広く知られている。血小板の活性化は,細胞質遊離Ca2+濃度([Ca2+]i)に依存しており,血管内皮細胞(EC)から放出されるPGI2や内皮細胞由来弛緩因子(EDRF)によって制御されている。今回われわれはECの血小板の活性化および細胞内Ca2+動員におよぼす影響について検討した。未刺激のECカラムの潅流液はトロンビン刺激の血小板凝集と細胞内Ca2+動員を抑制した。この潅流液を血小板浮遊液に添加すると血小板内のcyclic AMP (cAMP)は増加し,これはインドメサシンの添加で抑制されたことから,この作用はECから放出されたPGI2によると考えられた。一方,チメロサール刺激ECカラムの潅流液はトロンビン刺激の血小板凝集および[Ca2+]iの増加を抑制し,血小板内cyclic GMP (cGMP)を増加させた。しかしインドメサシンの処理にても影響はみられなかった。チメロサール刺激ECのこの作用はEDRF阻害剤である1-N-monomethylarginine (NMG)の添加で抑制されたことから,チメロサール刺激によりECから放出されたEDRFが,血小板のcGMPを増加させて活性化を抑制したものと考えられた。forskolinによる血小板のcAMPの増加は,トロンビン刺激後のイノシトール1, 4, 5-三リン酸(IP3)の産生を著明に抑制したが,8-bromo cGMPやEDRFによる血小板のcGMPの増加は,IP3の産生には影響を与えなかった。cAMPとcGMPの増加はそれぞれ別の機序によって細胞内Ca2+動員を制御していると考えられた。