著者
板野 直樹 木全 弘治
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.10, no.51, pp.23-38, 1998-01-02 (Released:2010-01-05)
参考文献数
69
被引用文献数
10 11

今日、ヒアルロン酸は脊椎動物の様々な組織やある種の連鎖球菌の莢膜に広く存在することが知られており、また変形性関節症の関節腔内に注入される補充物として医学応用されるなど、その重要性は年々増加している。ヒアルロン酸は特に、胚時期の細胞増殖や運動性の活発化している組織で、細胞外マトリックスの主要な構成成分として存在し、ヒアルロン酸結合分子や細胞表面受容体との相互作用により、細胞の接着、移動、分化をダイナミックに調節する。さらにこの遍在する高分子は形態形成や再生、創傷治癒、癌の浸潤・転移といった多彩な生命現象に関与することが示されている。他方、ヒアルロン酸の生合成機構解明に向けた研究、特にヒアルロン酸合成酵素を単離し同定する試みが、連鎖球菌や動物細胞を材料に過去十年以上にわたって精力的に行われてきた。ヒアルロン酸合成酵素を同定し、その遺伝子をクローニングすることは、ヒアルロン酸研究に新たな糸口を与えることになるだろう。近年我々をはじめ数グループが、ヒアルロン酸合成酵素の遺伝子を原核・真核細胞からクローニングし、ヒアルロン酸の生合成機構及び機能解析が急展開している。本レビューではヒアルロン酸合成酵素に関する最近の話題を紹介し、ヒアルロン酸研究が直面している問題点を指摘する。また最後に、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子のヒアルロン酸生理機能研究への適用や臨床応用にも言及する。
著者
板野 直樹 木全 弘治
出版者
日本サイトメトリー学会
雑誌
サイトメトリーリサーチ (ISSN:09166920)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.1-6, 2002-12-25 (Released:2017-07-11)
参考文献数
19

Rapid advances in diagnostic and therapeutic techniques have greatly improved cancer prognosis. How ever, even at present, it is difficult to predict cancer metastasis, and the elucidation of the mechanism of can cer metastasis and its therapeutic application have just begun. Cancer progresses as a complex phenome non involving various life phenomena such as the abnormal proliferation of cells, their acquisition of motility,degradation of extracellular matrices, and changes in intercellular adhesiveness. The interaction of a very wide diversity of molecules acting inside and outside the cells controls the complex behaviors of cancer cells. In particular, molecules acting outside the cells are thought to directly specify the malignant characteristics of cancer cells; therefore, investigators are attempting to prevent cancer cell invasion and metastasis by inhibit ing their functions. The extracellularly acting molecules include a group of molecules, such as fibronectin and laminin, which interact with each other or with other molecules to form matrices and regulate tissue formation and cell functions. In general, extracellular matrix molecules such as collagen are thought to block the inva sion and metastasis of cancer cells. Conversely, hyaluronan, which is another matrix component and large sugar chain molecule, is synthesized, formed into matrices in many cancer tissues such as breast and colon cancers and gliomas, and is closely related to cancer progression. This paper focuses on hyaluronan and its matrix formation, gives an overview of studies aimed at elucidating tumor progression, and refers to recent trends towards blocking cancer invasion and metastasis by targeting the biosynthesis of hyaluronan.
著者
板野 直樹
出版者
信州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

骨髄や腫瘍におけるストローマはニッチとして造血幹細胞の支持や動員に働く"場"を提供しているとされる。そこで、本研究では、Hasヒアルロン酸合成酵素の遺伝子改変マウスを駆使して、ストローマの形成するヒアルロン酸細胞外マトリックスが、ケモカインと連携して造血幹細胞の動員に働く分子機序について検討し、以下の結果を得た。1) ヒアルロン酸産生腫瘍における造血幹細胞の動員増加ヒアルロン酸合成酵素2(Has2)のコンディショナルトランスジェニックマウス(Has2 cTg)の解析から、乳がんにおけるヒアルロン酸の増加が、造血幹細胞と考えられるKSL(c-Kit^+Sca-1^+Lin^-)の乳がん組織への動員を増加することを明らかにした。2) ストローマヒアルロン酸の欠損による造血幹細胞動員の抑制Has2のコンディショナルノックアウトマウス(Has2 cKO)からヒアルロン酸欠損線維芽細胞を樹立して、乳がん細胞との共移植実験を施行し、ストローマヒアルロン酸の欠損により、KSL細胞のポピュレーションが移植がんにおいて有意に減少することを明らかにした。3) ヒアルロン酸欠損によるケモカイン産生の抑制線維芽細胞におけるヒアルロン酸合成の欠損がケモカイン産生に与える影響を抗体アレイにより検討し、ピアルロン酸合成の欠損により線維芽細胞のCXCL12産生が減少することを明らかにした。以上の結果は、間質ヒアルロン酸がケモカインの産生を増加して、腫瘍内への造血幹細胞の動員にニッチとして働くことを示唆している。