著者
林 俊誠 吉田 勝一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.306-311, 2019-05-20 (Released:2019-12-15)
参考文献数
8

腸球菌感染症が想定される場合,バンコマイシンが初期治療に用いられる.ペニシリン感受性と後日報告された場合でもバンコマイシンは数日間投与されるので,耐性菌の選択や不要な副作用の出現につながる.なかでも,ペニシリン感受性のEnterococcus faecalis 菌血症ではペニシリン系抗菌薬に比較してバンコマイシンなどのグリコペプチド系薬での治療は30日後総死亡率が高いことが報告されている.このような背景から,E. faecalis などのペニシリン感受性腸球菌を迅速に判定できる方法が必要であるが,質量分析法や遺伝子検査法による菌種同定は高額であるため導入は容易ではない.そこで我々は,グラム染色所見で「落花生サイン」の有無を観察することで,ペニシリン感受性腸球菌を推定する手法を考案し,その検査特性を検討した. 血液培養陽性検体のグラム染色標本の顕微鏡検査(以下,鏡検と略す)で,莢膜を有さない,両端が尖った楕円形で長軸方向に連鎖しているグラム陽性双球菌のうち,あたかも落花生の殻のように菌体の中央両側に連鎖軸と直行する対称性の切痕が確認できる所見を「落花生サイン」ありと定義し,これとペニシリン感受性試験結果を比較した. グラム染色の鏡検所見で,ペニシリン耐性腸球菌を「落花生サイン」ありとする感度と特異度は,それぞれ臨床医で78%,96%,臨床検査技師で94%,78% であった.この推定法の普遍性を確認するために,日常的に鏡検を行っている臨床検査技師と,そうでない臨床医のグラム染色所見の一致度を見たカッパ係数は 0.62 で検者間での推定結果の一致度は「Substantial agreement」と評価できた. 「落花生サイン」なしのグラム染色所見からペニシリン感受性腸球菌を推定できるこの手法は最大の治療効果と最小の副作用リスクを両立させ,薬剤耐性対策にもつながると期待できる.