著者
林 美朗
出版者
東海学院大学・東海女子短期大学
雑誌
東海女子大学紀要 (ISSN:02870525)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.181-192, 2004-03-31

症例は18歳、女性。主訴は大量服薬と過食嘔吐。高校1年の時より陸上部に籍を置いていたが、記録を伸ばすため、2年時より節食するようになる。3年時の春からは過食嘔吐も始まり、生活が乱れ、精神的にも不安定になった。自殺企図も見られたため、一時入院。以後、外来で精神療法的に関わりながら絵画療法・薬物療法等を併用した。筆者は、症例の高校生活の最後に「賞状をとるんだ」という目標を支持的に受容し、そのために生活の乱れの改善といったまずできることから始めて、「なかなか伸びない記録の代わりの成果のように錯覚していた」という過食嘔吐を、自由に自己を解放することに振り向けるよう誘導した。その結果、卒業直前の最後の駅伝大会では3位入賞を果たし、過食嘔吐も次第に抑制されてきた。また自らの闘病記を記した高校の「卒業論文」が佳作に入って、さらに症状の安定化が見られるようになった。症例は「卒業論文」は書くのがとてもつらかったと述懐していたが、本稿ではその「卒業論文」を症例の承諾が得られたので提示し、「書くこと」の自己治療的な効果を中心に、さらに若干の考察を試みた。