著者
枡田 幹也
出版者
一般社団法人 日本数学会
雑誌
数学 (ISSN:0039470X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.386-411, 2010 (Released:2013-08-01)
参考文献数
88
著者
枡田 幹也 CHOI Suyoung
出版者
大阪市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

トーリック多様体の微分同相による分類問題,特に,2つのトーリック多様体が同型なコホモロジー環をもてば微分同相かと問う問題(コホモロジー剛性問題)に取り組んだ.トーリック多様体の代数多様体(または複素多様体)としての分類は対応する扇の分類に帰着されるが,微分同相類または単に同相類における分類の研究は進んでいない.これまでコホモロジー剛性問題の反例は見つかっておらず,部分的な肯定的結果が得られているが,受け入れ研究者の枡田と,ある種の条件をみたすボット多様体に対しては,コホモロジー剛性問題が肯定的であることを示した.また,剛性問題が肯定的だとすると,コホモロジー環が同型であるトーリック多様体の特性類はコホモロジー同型写像で移りあう.ボット多様体に対してコホモロジー剛性は未解決であるが,この特性類の不変性は示すことができたのは大きな成果であった.トーリック多様体は複素代数多様体であるが,その実数版と言えるものとして実トーリック多様体がある.トーリック多様体は単連結であるが,実トーリック多様体は非単連結で,aspherical多様体である場合が多い.本研究では,実ボット多様体の分類を行った.この研究は受け入れ研究者の枡田が行っていたものだが,その研究がacyclic digraphという有向グラフと関係があることを見出し,幾何とグラフ理論の新たな関係を発見した.特に,実ポット多様体の微分同相による分類が,acyclic digraphの集合を3つの操作で移りあうものの同値類であることを示した.この3つの操作の内,一つはlocal complementationと呼ばれて既にグラフ理論で研究されていたものと一致したのは,驚きであった.