著者
柏木 加代子 飯倉 洋一
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

ニース、シェレ美術館蔵『北斎漫画』第15編は、原表紙なし、厚手の白い紙で後補、ホチキス止め、書型は半紙本の横裁断前と思われる大きさ(縦22.7×横17.8cm)、表紙にペン書きで、"Printer'sProof Hokusai Manga Vol XV"と記され、収集者自身が「見本刷」と認識した、稀有な資料であることが判明した。またエコ-ル・デ・ボザール資料館が1907年以来所蔵する、トロンコワ・未公開コレクション(日本美術品)の研究で、肉筆絵画58点、浮世絵355点、絵本(版本)45点の詳細を明らかにした
著者
柏木 加代子
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

平成15年度はフロベールの20世紀初頭芸術への影響を日本文化も含めた国際的な視野で考察した。明治維新(1867年)にフランスに紹介された歌舞伎<芝居>特有の「花道」や「回り舞台」などは、当時のフランス文壇がレアリスムに傾倒していたことからレアリスム表現として評価されたという。殺戮や暴力シーンが舞台裏で行われてきたフランス古典劇に慣れ親しんだフランス人には歌舞伎の技法が新鮮に映ったのだろう。フロベール存命中の1870年出版のLe Japan illustree(en 2 vols)が日本に関しての最初のテクストである。フロベールのレアリスム考察に東洋思想が影響していたのかどうかは議論しなければならないが、少なくとも初稿『聖アントワーヌの誘惑』にもあるように、<舞台裏と舞台>といった戯曲の基本理念において、フロベールは真のレアリスムのあり方を試行錯誤していたことは明白で、当時の日本趣味の影響をそこに見いだすことも可能である。1878年の万国博事務官長前田正名の原作で「忠臣蔵」を手本とした劇『ヤマト』(1879年2脚日初演)。がゲイテ劇場で上演されているが、パリの劇場にしばしば通っていたフロベールがこうした時代の潮流とは無関係であったとは考えにくい。フロベールの沈黙指向はまさに歌舞伎の<見得>に呼応する舞台技法であって、役者が含蓄の深い目立った表情・動作をしてみせ、観客が拍手を惜しまない沈黙の一瞬である。フロベールにとっての「演劇創作時代」である1870年代に日本趣味がパリの演劇界を賑わしていたことは注目に値する。