著者
新井 弘 柏瀬 宏隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.951-956, 1992-09-15

【抄録】 父親(夫)に対し母・娘・息子が被害妄想を抱いた感応精神病の1例を報告し,その発症から治癒までの経過中にみられた家族病理の変化,継発者の関与の過程を考察した。発端者は母親,継発者は15歳の娘と10歳の息子であり,2人の継発者で感応現象が異なっていた。すなわち,娘は母の精神異常に積極的に関与し,母の周囲に対する被害妄想に感応した後は,母と一緒に,妄想に共感しなかった父へと妄想の対象を移していった。他方,息子は父と母・娘との対立関係の中で,心因性けいれん発作を起こした後,消極的関与のまま父への被害妄想を抱くようになった。このような2人の感応過程の様態から,娘は積極的関与型,息子は消極的関与型の感応精神病と分類される。継発者を積極的関与型と消極的関与型という視点からみれば,感応精神病の治療への反応性が予測されうると考えられた。
著者
柏瀬 宏隆 池上 秀明 中野 嘉樹 岩田 長人 小此木 啓吾 五島 雄一郎
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.49-54, 1981-02-01

かつて我々は, 慶応健康相談センター(いわゆる人間ドック)を2年間に受診した全患者の心身両面につき, ライフサイクルの立場から検討したことがある。人間ドックは本邦で発達した特異な医療施設であり, 健康保険が適応されず, 受診者は社会経済的に中流以上にあると考えられる。今回は, ドック受診者で65歳以上の一般に健康と考えられる老年層のCMI(約200項目)と臨床検査所見につき, 壮年層(30〜39歳)を対照にして比較検討し, いくつかの知見を得たのでここに報告する。(1) 身体的自覚症には, 「disturbance of visual acuity」〔眼〕(対象老年層の90%以上), 「loss of more than half the teeth」〔歯〕(70%以上), 「urtination at night」(60%以上), 「disturbance of hearing」〔耳〕(40%以上)などが高頻度に認められた(老年層に有意)。「Disturbance of visual acuity」は, 自覚症としてだけでなく検査所見でもほとんどの老年層に認められ, 個人差の少ない普遍的な老化過程の指標の一つとみなされる。(2) 精神的自覚症をみると, 「depression」と「tension」に関係する項目の頻度が少なく, 逆に「sensitivity」と「anger」についての頻度が多かった。これは, 「depression」と「tension」は日本人に普遍的感情なため一般的には自覚されにくいのではないかと考えられた。(3) その他, 老年層に有意に多い愁訴には, 「insomnia」(40%以上), 「making mistakes when doing things in a hurry」(20%以上), さらに頻度は少ないが「hopelessness」(10%以下)などがあった。(4) CMIを老年層に施行するときは, 老化過程を反映しやすい「memory」と「sexual function」の項目を追加するように改訂すべきである。(5) 「Disturbance of hearing」, 「hypertension」, 「cardiac diseases」や「diabetes mellitus」などの疾患は, 自覚症は目立たず, ドック検査ではじめて指摘される可能性が高い。