著者
横川 正美 菅野 圭子 柚木 颯偲 堂本 千晶 吉田 光宏 浜口 毅 柳瀬 大亮 岩佐 和夫 駒井 清暢 山田 正仁
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E3O2227-E3O2227, 2010

【目的】昨年の日本理学療法学術大会において、地域住民を対象に認知症予防として実施した認知機能プログラムと運動機能プログラムの効果を調べたところ、前者のみならず、後者のプログラムでも記憶機能の改善が示唆されたことを報告した。本研究では、同様のプログラムを再度実施し、プログラムに参加していない対照群との比較を行った。<BR>【方法】一昨年度および前年度に地域で実施された脳健診の受診者から、明らかな脳疾患を有する者、および臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating; CDR)が1以上のものを除いた806名に研究参加を募った。参加への同意が得られた37名のうち、介入前後の評価を実施できた31名を介入法の対象者とした。対照群として、本研究の趣旨を説明し協力の同意が得られたグループデイ参加者20名のうち、介入群と同時期に評価を実施できた13名を対象者とした。グループデイは概ね65歳以上で、週1回以上自主的に運営し活動するグループであり、本研究の介入法には参加していない。介入法では、参加者を無作為に2つのプログラムのうち、次のいずれかに振り分けた。一つは認知プログラム(n=17)で認知症の前段階で低下しやすいと考えられている実行機能を重点的に高める内容であり、具体的には旅行の計画立案と実施を行った。もう一つは運動プログラム(n=14)で認知機能に効果的とされる有酸素運動を主体としており、体調確認の後、準備運動、ウォーキング(10-15分)、柔軟体操を行った。2つのプログラムはどちらも週1回約1時間、合計8回実施した。介入法参加者と対照群には介入前後に認知機能検査としてファイブ・コグを施行した。<BR>【説明と同意】参加者に本研究の趣旨を説明し、書面にて同意を得た。本研究は所属する機関の医学倫理委員会の承認を得た。<BR>【結果】参加者の平均年齢は72.8±4.3歳、平均教育年数は10.0±2.0年であった。認知プログラム、運動プログラム、対照群の間で対象者の年齢、教育歴による差はみられなかった。ファイブ・コグの下位項目(運動、注意、記憶、視空間認知、言語流暢性、思考)の各評価得点について、2つのプログラムと対照群のうち、どれに参加したかという「プログラム」因子と、参加前か参加後かという「時間」因子による二元配置分散分析を行ったところ、交互作用が認められた項目はなかった。次に参加前、参加後の各評価得点をプログラム間で多重比較したところ、有意差が認められた項目はなかった。各プログラム内での多重比較では、認知プログラムにおいて、運動(22.4±5.6点→24.8±6.3点; p<0.05)と記憶(13.4±6.5点→17.1±6.1点; p<0.01)の得点が参加後、有意に改善した。運動プログラムにおいても同じく運動(19.4±6.5点→22.7±6.4点; p<0.01)と記憶(12.4±7.3点→15.6±5.7点; p<0.05)の得点が参加後、有意に改善した。対照群では、参加前後で有意に変化した項目はなかった。<BR>【考察】対照群では認知機能検査において有意な改善が認められた項目がなかったのに対し、認知プログラムと運動プログラムでは記憶の項目が改善した。2つのプログラムは昨年も同様の結果が得られている。プログラム間で改善した認知機能に差異がみられる傾向にあるが、どちらのプログラムも有効性が示唆されたことから予防事業で用いる場合に効果が期待できると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】運動療法を用いた認知症予防の方法を提案するためのエビデンスを蓄積する。