著者
柳田 勉
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.276-282, 1988-04-05

ニュートリノ(中性微子)に質量があるだろうか? もしニュートリノにわずかでも質量があれば, 宇宙・天体物理学はもとより素粒子物理学にも重大な影響を及ぼす. 最近, ニュートリノが0.001〜0.01eV程度の質量を持てば, 天体物理学の長年の謎になっている「太陽ニュートリノの問題」が巧妙な方法により解かれることが発見され, 話題になっている. このニュートリノの質量こそ素粒子の大統一理論の予言していたものである. 現在, 我が国をはじめとして世界各地で太陽ニュートリノの測定が計画されている. この仮説が検証されれば, 素粒子物理学も新たな局面をむかえることになろう.
著者
柳田 勉
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.323-326, 2003-05-05

ニュートリノの小さな質量を予言するシーソー機構について大統一理論を用いて解説する.このシーソー機構によれば,レプトン数の保存則が破れ,ニュートリノはマヨラナ型の質量を持つ.このレプトン数の破れが現在の宇宙におけるバリオン数非対称性の起源になることを説明する.
著者
柳田 勉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ニュートリノの小さな質量を説明するSeesaw機構によれば、その小さい質量は非常に重いMajoranaニュートリノが存在することを予言する。この重いニュートリノは宇宙の温度がその質量より高ければ大量に生成される。その後、宇宙が膨張し、重いニュートリノの質量より宇宙の温度が下がってくると重いニュートリノの崩壊が始まる。ここで重要なのはMajorana型の質量がレプトン数を破る点である。このために、重いニュートリノはレプトンへの崩壊と反レプトンへの崩壊が可能になる。CPが破れていればレプトンへの崩壊率と反レプトンへの崩壊率は互いに異なる。つまり、この崩壊によりネットなレプトン数が生成される。この生成されたレプトン数はKRS効果によりバリオン数に変換される。このようにして、宇宙のバリオン数が生成される。本研究では、この機構と観測されたニュートリノの質量が矛盾しないことを示した。宇宙のバリオン数の生成を考える上で宇宙のインフレーション後の再加熱過程の考察は不可欠である。本研究の最終年度では、インフラトンの崩壊を超対称性重力理論の枠内で考察した。超対称性が破れると重力子の相棒のグラビチーノが質量を持つ。その質量は超対称性の破れをクォークやレプトンの世界に伝える方法によって異なり、現在のところ未知のパラメターである。上記のバリオン数生成機構はこの超対称性の破れを伝える機構に重要な制限を与える。本研究では、宇宙のバリオン数と矛盾しない超対称性の破れを伝える機構として、Gauge mediationとAnomaly mediationが選ばれることを示した。この結果は来年度から始まるLHC実験により検証されると期待できる。