著者
徳丸 宜穂 柴山 由理子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.13-24, 2019 (Released:2020-07-01)

ベーシックインカムは、個人を対象にした無条件の現金給付によって一定程度の生活を保障する構想である。フィンランドでは2017 年1月より世界初の国単位での社会実験が行われており、国際的な注目を集めている。本稿は、フィンランドにおけるベーシックインカム構想とその社会実験の歴史的・政治的・経済的コンテキストを明らかにすることと、ベーシックインカムとその社会実験が、フィンランドの福祉国家の刷新にとってどのような意味を持ちうるのかを検討することを目的とする。結論は以下の通りである。(1)ベーシックインカムはフィンランドに特徴的な普遍主義の自然な帰結であり、ラディカルな手段とは言えない。(2)ベーシックインカムは短期的および長期的な問題解決策として広範に支持されるが、前者へと換骨奪胎される傾向がある。(3)北欧福祉国家の刷新手段としては限界があるが、議論の起爆剤としての可能性を持っている。
著者
柴山 由理子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.67-80, 2020

国民年金機構Kelaは、1937年国民年金法の制定によって議会直属の機関として設立されたフィンランド社会政策の主要な担い手である。本稿では、フィンランド社会政策の特徴をKelaの歴史的発展経緯から考察する。同組織は設立当初から農民政党との結びつきが強く、政治的な組織であることが指摘できる。Kelaは農民政党の意向を反映しながら管轄業務を拡大し、一律給付方式の保障や現金給付の割合の高いサービスを実現してきた。一方、社会民主党の役割は限定的で、同党が志向した所得比例方式の保障は妥協の産物としてKelaによる社会保障の枠外に置かれた。フィンランド社会政策の対立軸は「農村」対「都市」であり、Kelaを中心とする政治的対立に注目することは同国の社会政策の特徴を捉える上で意義深い。本研究では、フィンランド社会政策研究に「Kelaの視点」を加える必要性を主張し、比較福祉国家論の「社会民主主義レジーム」に多様性がある可能性を示す。
著者
柴山 由理子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.91-103, 2021 (Released:2022-07-03)

フィンランドの農民政党は、国民連合党と社会民主党とともに長年に渡り主要政党の一つに位置付けられている。その創設は、初の普通議会選挙が実施される前年の1906年と、北欧諸国の中でも比較的早いタイミングであった。農民同盟の 創設者サンテリ・アルキオ(Santeri Alkio)は、民族ロマン主義運動、啓蒙思想や進歩主義の思想に影響を受け、独立運動を支持し、議会開設を求める自由主義政党の青年フィンランド人党での活動後に、農民同盟の前身となる地域政党を立ち上げた。中心的なイデオロギーとして、「地方」や「農民」を重視するほか、アルキオは「土地の精神」を掲げ、フィンランド人のアイデンティティを模索した。ここに、フィンランド語を重視した民族主義運動の流れをくむ愛国主義的側面を見い出すことができる。一方、個人主義や自由主義、特に社会自由主義の思想の影響も強く、中道右派政党の出発点に社会自由主義の思想が埋め込まれていたことが指摘できる。本稿ではアルキオの思想から、フィンランド農民政党の特徴を考察する。
著者
柴山 由理子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.67-80, 2020 (Released:2021-07-01)

国民年金機構Kelaは、1937年国民年金法の制定によって議会直属の機関として設立されたフィンランド社会政策の主要な担い手である。本稿では、フィンランド社会政策の特徴をKelaの歴史的発展経緯から考察する。同組織は設立当初から農民政党との結びつきが強く、政治的な組織であることが指摘できる。Kelaは農民政党の意向を反映しながら管轄業務を拡大し、一律給付方式の保障や現金給付の割合の高いサービスを実現してきた。一方、社会民主党の役割は限定的で、同党が志向した所得比例方式の保障は妥協の産物としてKelaによる社会保障の枠外に置かれた。フィンランド社会政策の対立軸は「農村」対「都市」であり、Kelaを中心とする政治的対立に注目することは同国の社会政策の特徴を捉える上で意義深い。本研究では、フィンランド社会政策研究に「Kelaの視点」を加える必要性を主張し、比較福祉国家論の「社会民主主義レジーム」に多様性がある可能性を示す。