著者
柴崎 智恵子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.125-143, 2006-03-17

先進諸外国においては,疾病・障害を抱える親,きょうだいあるいは祖父母などサポートを必要とする家族のケアを担う児童が一定数存在することが明らかになっており,そのような家族ケアを担う児童のニーズ把握や支援のあり方が新たな児童福祉問題として注目され始めている。本稿においては,早くからこのような児童の問題に着手し,調査・研究・支援を体系的に行っているイギリスの児童介護者調査報告書を取り上げ,家族ケアを担う児童の生活状況についてレビューを行った。イギリスにおいて「ヤングケアラー(Young carer)」と称されるこのような児童たちは,家事援助や身辺的介助のみならず,要援護者の精神的サポートや与薬の管理,年金や保険の受け渡しまで担う。また,少数民族に属する家庭では,要援護者の通訳の役割を果たすこともある。ヤングケアラーはそのケア責任のため,友人関係や学業を犠牲にし,学習面での困難を抱えることも少なくない。また特に,ひとり親家庭,少数民族,要援護者である家族が精神疾患の場合,ケアを担うことによる影響が多岐に渡ることなどが報告されている。本稿における考察を踏まえ,今後はイギリスのみならず,このような児童による家族ケアを課題としているアメリカ,オーストラリア等の研究動向を参考にしつつ,我が国の現状についても言及していきたいと考えている。