著者
冨永 健太郎
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.195-204, 2007

1949年の身体障害者福祉法では,その制定過程において,いわゆる「総合法」的な議論がなされたが,結果としてそれは実現しなかった。また,1960年の精神薄弱者福祉法は,児童福祉法の唱える「独立自活」規定との連続性を(形式的にであったとしても)担保するという考えのもとで,機能障害によって保護・収容するのではなく,あらゆる「広義の障害者」を対象としてきた救護施設を周到に排除することで成立した。わが国では,この身体障害者福祉法と,精神薄弱者福祉法の制定によって,障害種別施策が確立する。この2法が成立したことで,他国に例を見ない機能障害別の縦割り制度が誕生したのである。こうした「機能障害の種類と年齢による対象区分」が先立つわが国の障害者福祉のあり方に対して,日本障害者協議会(JD)は,1996年に総合福祉法としての障害者福祉法を試案として提起している。だが,現行の障害者自立支援法では,そのような試案を必ずしも反映するものにはなりえていない。平成21年度には障害者自立支援法の改正が行なわれる。当該の法改正においては,制度が支援を阻む事態を回避しなければならない。それは,何よりもまず,障害のある当事者の支援ニーズが先行するものでなければならない。
著者
藤澤 益夫
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.3-48, 1998-12-25

社会保障ないし福祉社会のように理念としても制度としても成立後まだ歴史が浅く,しかもいまなお展開のしきりな分野については,その実体と機能は日々揺れ動いているに等しい。そこで,社会保障評価の土台を固めるフレームワークのひとつとして,これまで意外におろそかにされてきた社会保障/福祉社会をめぐる基本的な諸用語の生まれ育った経緯を探るエティモロジカルな発生論的考察をあらためて試みた。こうして,現代の福祉概念をささえているキーワードが,社会経済的環境条件の変遷とたがいにからみあいながら,変容を重ね定着してゆく道筋を具体的・沿革的に回顧し追跡することにより,社会保障/福祉社会の現座標にたいする認識の錯綜を整理して,その役割への理解を深め,ひいては将来像の堅実な展望に資そうとするものである。
著者
柴崎 智恵子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.125-143, 2006-03-17

先進諸外国においては,疾病・障害を抱える親,きょうだいあるいは祖父母などサポートを必要とする家族のケアを担う児童が一定数存在することが明らかになっており,そのような家族ケアを担う児童のニーズ把握や支援のあり方が新たな児童福祉問題として注目され始めている。本稿においては,早くからこのような児童の問題に着手し,調査・研究・支援を体系的に行っているイギリスの児童介護者調査報告書を取り上げ,家族ケアを担う児童の生活状況についてレビューを行った。イギリスにおいて「ヤングケアラー(Young carer)」と称されるこのような児童たちは,家事援助や身辺的介助のみならず,要援護者の精神的サポートや与薬の管理,年金や保険の受け渡しまで担う。また,少数民族に属する家庭では,要援護者の通訳の役割を果たすこともある。ヤングケアラーはそのケア責任のため,友人関係や学業を犠牲にし,学習面での困難を抱えることも少なくない。また特に,ひとり親家庭,少数民族,要援護者である家族が精神疾患の場合,ケアを担うことによる影響が多岐に渡ることなどが報告されている。本稿における考察を踏まえ,今後はイギリスのみならず,このような児童による家族ケアを課題としているアメリカ,オーストラリア等の研究動向を参考にしつつ,我が国の現状についても言及していきたいと考えている。
著者
佐藤 芳子 林 和子 坂井 忠通
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.29-40, 2007

麻疹は小児にとって,重症度の高い疾患であるが,最近成人(15歳以上)の発症も多くなってきている。国立感染症研究所の調査によると,近年患者数増加傾向にある年齢群は定期接種対象年齢を超えた20歳代前半での増加が見られていると報告している。2007年1月以降,東京都では高等学校や大学などで集団感染するなど,罹患患者が増え都内の多くの大学では休講になり,教育実習シーズンを迎え学生が各地に散らばるため,大学では麻疹対策に追われるという状況になった。また各大学では,感染防止のため抗体検査やワクチン接種を行なわなければならなくなり,そのうえ試薬やワクチン不足に直面する状況であった。田園調布学園大学では2名の罹患者にとどまり,集団感染は免れ,休講にはならなかったが,各施設実習や病院実習の時期にかかり,抗体検査やワクチン接種の必要性にせまられ,各病院やクリニックに連絡するなど,対応におわれた。幸い教職員の協力で,全学生及び教職員は抗体検査がおこなわれ,また抗体陰性の学生にはワクチン接種を行なうことが出来た。そこで抗体検査の結果などを元にその現状と今後の方向性などについて考察を加えたので報告する。

2 0 0 0 OA <論文>長寿譚

著者
藤澤 益夫
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-104, 1999-12-30

すでに日本は高齢社会に深く踏みこみ,まさに超高齢状況を迎えようとしている。そこで,先人の詩文が描きだす老年観・老人論を尋ねて,その移り変わりを探るとともに,人の延命願望を象徴する東西の永寿伝説や,真偽とりまぜての古今の長命記録を拾い集め,老齢問題を考える視界をひろげる。さらに,エルダー比重増大にともなう余弊としての社会の不活性化不安と,そのなかで見え隠れする元老支配懸念への批判をふくんで,高齢者階層の社会経済的位置づけをこころみる。
著者
藤澤 益夫
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.5-20, 2003-03-25

フランス革命のさなか市民社会の揺藍期にあって,早くもコンドルセは,公正な理想社会実現の基礎条件として,賃銀システムの不確実性を補う社会保険の不可欠なことを予測し情熱をこめて制度を構想唱道した。いま,成熟した高度産業社会のひずみに対抗して,社会秩序の総体的なバランスを回復するために,現代の社会保障政策を考えるとき,その大きなポイントは,惰性と勢力に支配された政治算術をあやつることではなく,転換期の社会形成にかけたコンドルセの確かなロゴスにささえられた熱いパトスを継ぎ,福祉政策の目的と機能を明示して,そこに公平性確保の精気をよみがえらせ,新しいこれからの社会統合の土台をつくりだすべきことを考察した。
著者
坂井 忠通
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.177-188, 2000-12-30

本論文は情報システム開発におけるソフトウェアの品質管理手法の改善を実践的な立場から考察,提案するものである。情報システム開発における上流工程(設計,作成工程)で作り込まれたバグ(プログラムのミス等)を下流のテスト工程で確実に摘出/修正して品質向上を実現するために,広く採用されているPB曲線活用方法の限界とその対策をテスト作業者のマインドに着目して改善する提案とその適用事例について述べる。
著者
荒木 乳根子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.71-96, 1998-12-25
被引用文献数
3

筆者ら(高齢者処遇研究会, 代表 : 田中荘司)は1997年に全国の介護福祉士を対象に「在宅・施設に於ける高齢者及び障害者の虐待に関する意識と実態調査」を実施した。本論はこの調査で得られた在宅における高齢者虐待事例,91事例について分析したものである。また,具体的事例も記載した。被虐待者は女性に多く,後期高齢者が7割を占め,依存度の高い者が多かった。虐待者は嫁が4割近くを占め,次いで,配偶者,息子,娘であった。被虐待者は一人平均2タイプの虐待を受けており,世話の放棄,身体的虐待,心理的虐待がともに6割近くにみられた。虐待の要因は一概に言えないが,虐待者の「介護疲れ・ストレス」および「過去からの人間関係の不和」が最も大きな要因となっていた。虐待者は虐待に関して「虐待と思っていない」ないし「仕方がない」と考えている場合が多かった。虐待の発見者はホームヘルパーが4割を占め,専門職は解決に向けて虐待者・被虐待者と話し合う,保健福祉サービスの拡充などの努力をしていた。しかし,問題解決は13.2%に止まり,解決途中を含めても半数に満たなかった。今後,在宅介護における介護負担の軽減などが求められる。
著者
中川 正俊 荒木 乳根子 平 啓子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.51-67, 2007-03-17

大学生の年代は多様な精神保健上の問題が発生するため,一次および2次予防を中心とした大学精神保健対策は,学業の円滑な遂行を支援する上でも重要な課題となっている。そのためには,精神保健上の問題を有するか,または将来発生する可能性が高い学生を早期に把握し,精神保健の専門的サポートを行うことが重要である。またその際に,サポートの対象となる学生を的確に把握する方法として,高い感度と特異度を有するスクリーニング基準の確立が求められている。本論では,本学人間福祉学部への2002年度入学者231名を対象に実施したUPI(大学精神健康調査)の結果と,その後の精神保健上の問題発生ならびに学業遂行状況との関連性を検討した。その結果,心理的問題で学生相談室を利用した者や精神疾患を持つ者は,そうでない者と比較してUPIの得点が高く,また学業の遂行に問題があった者も,そうでない者と比較してUPIの得点が高い傾向が明らかとなった。
著者
金井 守
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.41-57, 2007

2000年4月の介護保険制度の施行,同年の社会福祉法の成立により,介護及び福祉領域におけるサービスが利用者の選択により利用される仕組みへと変更された。このことは,従来の措置制度における行政処分から権利としてのサービス利用,契約によるサービス利用へと転換するまさにパラダイムの転換による制度変革であった。これにより,サービス提供事業者は,利用者と相対して契約を交わし,契約に基づいてサービスを提供することとなり,そのことは一方では,サービスの市場における競争を喚起しサービスの質を向上させ,利用者から選ばれる事業者となる必要性を生じさせた。従来,介護保険制度における各サービスの運営基準や社会福祉法によって利用者の保護のために規定された諸規制が,事業者の立場からは,利用者保護の必要性を理解しつつも事業者の契約行為に対する制限と受け取られ,契約に対する消極的イメージを払拭できない状況があった。従って本研究では,サービスの質を高める契約のあり方について論じるため,まず措置から契約への制度転換の歴史的経緯とその意義を確認すると共に,民法上における契約の意味を明らかにする。そして,それらを通して,介護サービス利用契約が一般の契約と異なる特徴を整理し,利用者保護の必要性を論じる。次に,既に実施された介護契約に関する調査,介護支援専門員の業務に関する実態調査等の結果を踏まえ,その他の文献から得られた契約とサービスの質に関する視点等から,事業者の契約をめぐる体制,契約締結過程,契約履行過程,契約更新過程等についてその実態や問題点を整理し,契約の概念や理論を概観する。その上で,サービスの質を高める契約の姿・方向性について考察を加え,事業者が契約を媒介し活用して,サービスの質を高める取り組みを行うことができる可能性とその条件を検討する。
著者
馬場 純子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 = The human welfare review (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
no.1, pp.97-116, 1998-12-25

痴呆性老人の在宅介護方法開発研究の一環としてK県内のケアセンターを利用する痴呆性老人とその介護家族を対象とした継続評価観察調査において主介護家族の負担感を測定し,その変化や影響する要因について検討した。2ヶ月に一度ずつ計4回,質問紙調査票を用いて各ケアセンターの指導員・看護婦などの専門職による個別訪問面接調査を行った。有効回答票はは28ケースである。負担感の測定には,Zaritらの負担感スケールを使用し,主介護者の負担感の変化について,何が効果的に影響したのかを探るため,要因と考えられる痴呆性老人の病状や行動評価,問題行動,サービス利用状況及びその他の支援との関連を検討した。その結果,ケースマネジメントによるサービスの調整や相談・助言などの支援を受けて8ヶ月後に負担感が変化したものは24ケース,そのうち負担感が増大したものが15ケース,軽減されたものが9ケースであった。負担感の変化と相関が認められたのは,老人への介護の対応状況とデイサービスの利用回数の変化であった。全体的な傾向は,ADLやACTIVITYなどの行動評価に顕著な改善が見られても,対応困難な問題行動が改善されない場合には負担感は増大する,また専門職による精神的支えや適切な助言及び諸サービスの調整などの援助が積極的に行われているケースにおいては,痴呆の程度が進んでも負担感が増大するわけではないなどの傾向が示された。
著者
馬場 純子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 = The human welfare review (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
no.3, pp.59-78, 2000-12-30

近年,わが国においては「ケア」と「介護」を同義語とすることをはじめ,「ケア」という言葉が氾濫しているといっても過言ではない状況にある。公的介護保険制度の開始,社会福祉基礎構造改革や社会福祉法の制定など,わが国の社会福祉をめぐる状況が大きく変化している現在,本研究はそれを自明のこととするのではなく改めて「ケア」の概念,意味するところを問い直そうと問題提起するものである。その第一歩として,人が「ケア」或いは「ケアする行為」をするのはなぜか,その動機や理由,人を「ケア」「ケアする行為」に導くもの,その基盤について,特にインフォーマル・ケアを中心に主に社会学的側面からの検討を行った。その結果,個人には人との関係を通してのみ満たされることのできるwell-beingに必要なものがあり,異なる関係においては異なる機能がもたらされるということが判明した。そして同じケアでもその担い手との関係によりもたらされるものが異なるという知見は,今後の地域福祉型社会福祉における社会的分業に貴重な示唆を与えるものであるが,人を「ケア」或いは「ケアする行為に」導くものの説明に十分な説得力あるものとはならなかった。今後は併せて哲学的,倫理的な側面からの検討を行う。
著者
藤本 末美 福間 和美 松山 直美 中島 礼子 園田 美香 末永 貴代 徳永 活子 金子 智美 陣川 しのぶ 吉川 直美
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.21-43, 2004-03-17

地域における保健福祉活動を考えるにあたって,住民の住んでいる地域(地区)における生活や生活を支える地域組織活動が大きく影響していると考える。しかし,日常生活を営んでいる平常時には,当たり前の存在として過ごしていることが多い。しかし,災害等が発生する非常時には,平常時の生活と地区組織がどのような活動をしているかによって,生活の支え方が大きく左右されるものと考える。今回,雲仙・普賢岳噴火災害地域・K地区について災害から10年を経過した現在までの,住民の生活と地区組織活動の再編成過程について,その関連を検討し新たな知見が得られた。この知見は,今後の平常時の生活と地区組織活動のあり方や,さらに非常時である災害発生時の生活と地区組織活動のあり方に応用展開できるものと思われる。