著者
本荘 千枝 浦 環 玉木 賢策 永橋 賢司 柴崎 洋志 細井 義孝
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.427-435, 2010 (Released:2016-04-15)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

2008年3月および10月に,伊豆・小笠原弧の背弧リフト東縁部に位置するベヨネーズ海丘カルデラにおいて東京大学生産技術研究所が開発したAUV(Autonomous Underwater Vehicle: 自律型海中ロボット)r2D4 による潜航調査が行われた。本研究では,カルデラ北部と南東部における2潜航で得られた地磁気データを用い,磁気インバージョンにより海底の磁化強度分布を明らかにした。その結果,カルデラ底北縁部とカルデラ壁南東部にそれぞれ磁化の強い箇所があることが判った。これらの高磁化域は,ベヨネーズ海丘の南北に延びる玄武岩質の海丘列とほぼ同じ線上にあることから,この海丘列の火山活動による玄武岩質の貫入岩であり,ベヨネーズ海丘の厚い地殻に阻まれて海底噴出には至らなかったものであることが推察される。また,この高磁化域のひとつはカルデラ床南東縁辺部にある白嶺鉱床に隣接しており,白嶺鉱床を形成した熱水活動の原動力がこの玄武岩質マグマの貫入であった可能性を示唆する。磁化強度分布と熱水鉱床との関係については,熱水循環に伴う変成作用で岩石が磁化を失い,鉱床周辺が低磁化域となることが指摘されているが,本研究域内にある白嶺鉱床は特に明らかな低磁化域を伴っているようには見えない。これは,ベヨネーズ海丘がそもそも強い磁化を持たないデイサイト質の溶岩と砕屑物から成るため,磁化を失った玄武岩などが存在しても周囲の岩石と見分けがつきにくいためであろう。熱水活動による消磁という効果を考慮すると,高磁化域として見えているのは,鉱床からある程度距離があり変成作用を受けなかった部分だけで,実際の貫入岩体の広がりは白嶺鉱床下まで及んでいることも考えられる。本研究で得られた磁化強度分布の解像度は,データ自体の解像度ではなく,解析過程で施される短波長成分を除くフィルターに規定されている。海上観測から深海観測へと重点が移りつつある海洋地磁気研究において,高解像度のデータを最大限に生かせる解析方法の確立こそが緊急の課題である。