著者
高木 基裕 矢野 諭 柴川 涼平 清水 孝昭 大原 健一 角崎 嘉史 川西 亮太 井上 幹生
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.35-44, 2011 (Released:2011-10-01)
参考文献数
19
被引用文献数
6 5

マイクロサテライト DNA 多型解析法を用いて,重信川水系におけるオオヨシノボリ個体群の遺伝的集団構造の解析および耳石 Sr/Ca 濃度による回遊履歴の判定を行い,人工構造物による分断の程度を評価した.各サンプルの遺伝的多様度を示すヘテロ接合体率 (期待値) の平均値は 0.843~0.889 と高く,いずれの個体群間でも大きな差は見られなかった.各個体群間の遺伝的分化程度を示す異質性検定では,重信川本流系の個体群間において有意差がみられなかった.一方,石手川ダム上流域の藤野および五明川の個体群は,重信川本流系のほとんどの個体群との間で有意差がみられた.また,重信川本流系の個体群との遺伝的距離は大きかった.耳石の Sr/Ca 解析から,藤野の個体は石手川ダムにより陸封された個体であり,重信川最上流の藤の内の個体は両側回遊型であることが示された.一方,石手川ダム直下域の宿野の個体において両側回遊型および陸封型がそれぞれみられ,遡上した個体とダムから降下した個体が混在していることが確認された.以上の結果から,石手川ダム上流域個体群の陸封化が確認されるとともに,人工構造物による分断の影響を受け,石手川ダム上流域の個体群は他の重信川個体群と遺伝的に分化していることが示された.