著者
柴田 佳子
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

カリブ海社会のアジア系、特に内外の研究で最も手薄な中国系に焦点を当てたことで、現地内外のカリブ海地域研究に貢献できるものとなった。具体的には、経済社会的に躍進を続ける現地生まれの中国系のジャマイカ社会へのコミットメントのあり方を、諸行事や生活などの参与観察と多数へのインタビューなどにより、到来150周年記念を契機にエスニシティが再活性化される様態を明らかにした。さらに80年代以降の中国の改革開放政策、ジャマイカでの自由経済政策への転換によるフリーゾーンへの若者労働者、また従来型の親族ネットワークによる移民、出稼ぎ労働者の五月雨式到来により、チャイニーズ・コミュニティは大きな転換期を迎えたが、その種々の側面と動態について調査した。なかでも政治経済的左傾化で大挙して海外逃避した70年代に廃墟と化し、長年の懸案だった民族共同墓地の再編は特筆すべきで、世代を超え、最新の技術や知識、資金を駆使し、内外のディアスポラ・ネットワークが動員されている。グローバル化のマクロなレベルとの連動やクレオール化には従来の主流派のアフリカ系/黒人系主体とは異なる位相がみられ、グローカル化、ディアスポラ研究、トランスナショナリズム研究へも重要な知見の提供が可能となった。現代の急速に変化するミクロなレベルの動態とグローバル化との関連、クレオール化の現代的位相において、ガイアナはジャマイカとは別種の展開をみせ、カリブ海社会の多様な変化の実態を証明できる。ガイアナのエスニック・コミュニティはインド系と中国系では全く異なる。中国系の旧移民はほとんどが国外居住し、共同体としては崩壊したが、90年代から参入増加が目立った新移民がとって代わりそうな状況にある。しかし、クレオール化した旧移民とのコミュニケーション回路がほとんどなく、言語、宗教、生活文化の差異は分断する決定的な影響を与えていることがわかった。