著者
豊嶌 啓司 柴田 康弘
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.1-12, 2016-11-30 (Released:2018-05-25)

本小論の目的は,社会科で育成される思考の操作を概念の活用と捉え,新たな事実判断の再構成として他者との関係構築思考を評価する問題の開発とその検証である。概念活用の思考評価では,概念的知識の活用による,他者との関係構築思考が重要である。そのための評価枠組みとして「学習者中心のデザイン」(LCD)の援用が有効であることを,指導と評価を通して実証的に明らかにした。成果は以下の3点である。1点目は,従前の社会科では活用としての思考評価は不十分であることを指摘した。2点目は,再文脈化つまり概念的知識の活用による社会科固有の関係構築思考についての評価問題を作成するための,具体的な11個の「足場かけ方略」及び問作スキルを明らかにした。3点目は,これらをもとに開発した評価問題を中学校社会科で実施し,その成果を検証した。その結果,我々が提案する「足場かけ方略」は,生徒が解答しつつ「新たに学ぶ」段階的な思考方略として,社会科の活用としての思考評価において有効であることを実証的に明らかにした。
著者
南浦 涼介 柴田 康弘
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.25-36, 2013-11-30 (Released:2017-07-01)

本研究は,生徒が社会科を学習する際の「学習観」に焦点を当てた研究である。現時点でこの「学習する意味」に着目した研究は多くない(Evans,1989,1990;村井,1996;佐長,2012)。しかし,「学習観」の形成と教師が行う実践には大きな関係があり,実践が生徒の「学習観」に与える影響は大きいと考えられる。本研究では,(1)生徒は,1年間の社会科学習を通してどのような社会科学習観を身につけたか,(2)生徒が身につけた「社会科学習観」には,教師のどのような影響があったか,(3)教師は社会科の目的や教育意図を,社会科指導においてどのように込めていく必要があるか,という点について探索的に考察していくことを目的とする。本研究は,いくつかのデータを取り扱っている。1つは,南浦ら(2011)を基にした4月〜3月の1年間におこなった質問紙による量的データである。2つめに,授業実施者である柴田に対するインタビュー,3つめに,授業を受けていた5人の抽出生徒の卒業後のインタビューという質的データである。インタビュー中,生徒たちは,自らの「社会科学習観」に強く影響を与えたこととして,第1に「日常的継続的な学習活動」第2に,教師が行った社会科学習の意味についてのさまざまな言葉がけ,第3に学校環境の変化を指摘した。この事例からは,教師が学習者の「社会科学習観」を変容させるためにはいくつかの要素が必要であることが推察される。第1に,教師は社会科学習の目的を単元レベルのみならず,日常的な学習活動やことばのレベルにおいても学習の目的を入れ込んでいく必要があるということである。第2に,教師は,こうした実践を柔軟に展開していくと同時に,演繹的に自身の教育目標からカリキュラムのレベルでコントロールしていく必要がある。第3に,教師が学校改革の中心的存在となり,学校で支持される「学習観」と教科で支持されるそれを関連づけていくことも重要である。この事例研究の結果から,筆者らは,社会科実践研究は単元レベルのみではなく,さらに具体的な実践レベルとカリキュラム・レベルを関連づけたものにしていく必要性を示した。
著者
南浦 涼介 柴田 康弘
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.97-117, 2015-12-30 (Released:2016-03-21)

本研究は,異なる立場にある「実践者」と「研究者」の協働による「実践研究」のありかたを模索する研究である。近年「実践研究」のありかたが提起されてきているが,多くの場合「実践者」と「研究者」は同一であることが前提である。しかし,教育の分野では異なる立場にある「実践者」と「研究者」が協働の形で実践の質的向上をねらう実践研究のパターンも当然想定される。また,近年の学力観の変容から,「学習者にとっての実践の意味」を考える視点の重要性も謳われている。ただ,これらが「研究者」による実態の解明としての研究である場合,「実践」の改善や変革につながりにくいという側面はある。本小論では,「実践者」と「研究者」が協働的な形で元生徒であった子どもたちに「座談会」を開き,中学校から高等学校に進学した中での子どもたちの学習に対する価値観の葛藤や変容を聞くことによる実践者と研究者のインパクトのありようを検討する。さらに,そうした過程を「実践者」と「研究者」が協働的に構築していくことによる実践研究の可能性について考察する。
著者
藤掛 英夫 安達 三郎 沢谷 邦男 柴田 康弘
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会誌 (ISSN:03866831)
巻号頁・発行日
vol.39, no.11, pp.1097-1102, 1985-11-20

用地難や電磁環境問題を避けるために, 中波放送アンテナを例えば山頂に設置することが考えられている.しかし, 山頂に設置した場合の中波放送アンテナの特性をあらかじめ予想することは, これまで理論的にも実験的にも困難であった.そこで本論文では, 山頂アンテナに関する筆者らのこれまでの理論の検証と, 山岳モデルを用いた実験方法の確立を目的として, モデル実験を行って得た測定結果について述べている.実験モデルには, 良導体である平地を模擬する導体地板上に, 損失性誘電体で構成された回転対称型のモデル山岳を製作し, この上に埋設接地線を施した直立モノポールアンテナを立てた.この実験装置によって, 先の筆者らの理論的報告の検証を行うと共に, 理論的には困難な, 接地効果がアンテナ特性に及ぼす影響を明らかにする.これによって, ある条件下において山頂中波アンテナが, 実用上有効であることを結論している.