- 著者
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南浦 涼介
柴田 康弘
- 出版者
- 全国社会科教育学会
- 雑誌
- 社会科研究 (ISSN:0289856X)
- 巻号頁・発行日
- vol.79, pp.25-36, 2013-11-30 (Released:2017-07-01)
本研究は,生徒が社会科を学習する際の「学習観」に焦点を当てた研究である。現時点でこの「学習する意味」に着目した研究は多くない(Evans,1989,1990;村井,1996;佐長,2012)。しかし,「学習観」の形成と教師が行う実践には大きな関係があり,実践が生徒の「学習観」に与える影響は大きいと考えられる。本研究では,(1)生徒は,1年間の社会科学習を通してどのような社会科学習観を身につけたか,(2)生徒が身につけた「社会科学習観」には,教師のどのような影響があったか,(3)教師は社会科の目的や教育意図を,社会科指導においてどのように込めていく必要があるか,という点について探索的に考察していくことを目的とする。本研究は,いくつかのデータを取り扱っている。1つは,南浦ら(2011)を基にした4月〜3月の1年間におこなった質問紙による量的データである。2つめに,授業実施者である柴田に対するインタビュー,3つめに,授業を受けていた5人の抽出生徒の卒業後のインタビューという質的データである。インタビュー中,生徒たちは,自らの「社会科学習観」に強く影響を与えたこととして,第1に「日常的継続的な学習活動」第2に,教師が行った社会科学習の意味についてのさまざまな言葉がけ,第3に学校環境の変化を指摘した。この事例からは,教師が学習者の「社会科学習観」を変容させるためにはいくつかの要素が必要であることが推察される。第1に,教師は社会科学習の目的を単元レベルのみならず,日常的な学習活動やことばのレベルにおいても学習の目的を入れ込んでいく必要があるということである。第2に,教師は,こうした実践を柔軟に展開していくと同時に,演繹的に自身の教育目標からカリキュラムのレベルでコントロールしていく必要がある。第3に,教師が学校改革の中心的存在となり,学校で支持される「学習観」と教科で支持されるそれを関連づけていくことも重要である。この事例研究の結果から,筆者らは,社会科実践研究は単元レベルのみではなく,さらに具体的な実践レベルとカリキュラム・レベルを関連づけたものにしていく必要性を示した。