著者
片山 一道 川本 敬一 大島 直行 多賀谷 昭 小池 裕子 柴田 紀男
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

本年度は、次年度以降に予定している本格的な現地調査にむけて、南部クック諸島で、形質人類学、比較言語学、および先史考古学の予備的な総合調査を実施することを主眼とした。形質人類学では片山と多賀谷と川本とホ-トンが、比較言語学では柴田とモエカアが、そして先史考古学では大島とサットンが、それぞれのパ-トを担当した。形質人類学に関係した調査としては、まず、マンガイア島、ミチアロ島、およびラロトンガ島で、検査に供する古人骨を発掘するための先史時代の埋葬遺跡の分布調査、有望と思われる遺跡の時代性や埋葬状況などについての実地検証と記録をおこなった。そして、マンガイア島のツアチニ洞窟遺跡に埋葬された古人骨について、計測と肉眼観察の方法によって、先史マンガイア島民の身体特徴、古病理、古栄養などに関する基礎デ-タを収集した。さらに、ニュ-ジ-ランドのオタゴ大学で、トンガやニュ-・ブリテン島のラピタ時代の遺跡から出土した古人骨資料などについて、形質人類学の各種の検査を行って、比較分析用のデ-タを集めた。先史考古学の調査としては、まず、ラロトンガ島、ミチアロ島、マンガイア島、アイツタキ島で先史遺跡の分布状況を広く踏査した。そのあと、ミチアロ島では、テウヌ遺跡全体の清掃作業や実測を行った。その結果、この遺跡が、マラエ、各種の石製構造物、複合墓地、石棺墓などから成る巨大な複合遺跡であることが判明した。さらに、マンガイア島では、ツアチニ洞窟内で新たに発見した土壙墓の試掘、イビルア・スワンプ周辺の先史居住遺跡の実測と遺物の表層採集を実施した。イビルア遺跡では、この地域では従来報告例のないタイプの剥片石器を含む多数の石器遺物を採集するとともに、この遺跡が、相当な年代にわたるとおぼしき生活遺物の包含層が堆積するという点で、次年度の本格的な発掘調査のために有望な候補地であることを究めた。この他に、ラロトンガ島では、アツパ、アロランギ、アロア・タロ、マタベラ、ムリ、アバチウの合計六カ所のスワンプから、人類の住居による植生の変遷過程を編年的に分析するための花粉分析用、および放射性炭素分析用のコアを採集した。これらのコアは、ニュ-ジ-ランドのマッシ-大学で分析中であるが、現在までに、南部クック諸島での人類の最古の居住時期が3000年BP以前に遡るらしいという予備的な知見が得られている。言語学の調査としては、マンガイア島とラロトンガ島とマウケ島で、各島出身の古老などのインタビュ-を通じて、マンガイアやラロトンガやマウケの南部クック諸島の各方言、およびペンリンなどの北部クック諸島方言の古層語彙や口承テキストの採集に努めた。これらは古クック諸島語の形態を復元するための基礎資料となるはずのものであるが、これまでに、プロト・ポリネシア語のs*とf*の発音の分化の歴史についての興味ある知見が得られた。これらの現地調査とは別に、川本は、クック諸島に現住するポリネシア人から集めた歯型の石膏模型について、種々の歯冠形質の発達程度を分析して、クック諸島のいくつかの島でのこれらの形質の出現頻度を求めた。歯科人類学の方法で、他集団との比較研究を行ったところ、歯の特徴で見る限り、北部クック諸島と南部クック諸島の間では相当な地域差が認められること、北部クック諸島人はメラネシアのグル-プに近いのに南部クック諸島人は他のポリネシア人集団に近縁であること、類モ-コ群と呼ばれる形質のクック諸島人での出現率がハワイのポリネシア人やグアムのミクロネシア人に近似することなどを明らかにした。