著者
山澤 德志子 柿澤 昌
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.4, pp.200-205, 2016 (Released:2016-04-09)
参考文献数
23
被引用文献数
1

一酸化窒素(NO)とカルシウムイオン(Ca2+)は,ともに極めて重要なシグナル分子である.NOは,NO合成酵素により産生され,生体内で様々な生理的および病態生理的機能に関与している.NOは可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化し,サイクリックGMPを介したシグナル伝達に関与すると従来考えられてきた.近年,NOにタンパク質のシステイン残基をS-ニトロシル化するタンパク質修飾機能があり,シグナル伝達機構として働くことが注目されている.一方,リアノジン受容体は細胞内カルシウムストア(小胞体)にあるカルシウム放出チャネルで,細胞内カルシウムシグナル形成の鍵となる分子の1つである.今回,NOがリアノジン受容体の特定のシステイン残基をS-ニトロシル化して活性化し,細胞内カルシウムストアからカルシウム放出を起こす事を明らかにした.加えて,この新しいカルシウムシグナルであるNO依存的カルシウム放出(NO-induced Ca2+ release:NICR)の病態生理学的な意義も明らかになった.脳虚血に伴いNO合成酵素が活性化され神経細胞死を誘発することが知られている.これは,脳梗塞などにおける神経細胞死の主要な原因とされている.大脳皮質培養神経細胞でもNO依存的カルシウム放出が観察され,NOドナー投与により神経細胞死が亢進した.しかし,NO依存的カルシウム放出を阻害する薬物(ダントロレン)を投与すると,NOによる神経細胞死が抑制された.これより,NO依存的カルシウム放出が神経細胞死に関わることを明らかにした.さらに興味深いことに,ダントロレンは,脳虚血モデルマウスで脳梗塞を軽減した.今回の新知見は,NOによる脳機能制御の基本的な理解を深めるとともに,神経細胞死を伴う病態に対する新たな治療戦略の基盤となり得ると期待できる.
著者
柿澤 昌
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

平成18年度には、主に薬理学的実験により、申請者自身が見出した一酸化窒素(NO)依存的な小脳平行線維-プルキンエ細胞シナプスにおけるLTPが細胞内のカルシウム上昇に依存することが示された。しかもイメージング法を用いた解析により、このCa上昇は、申請者自身の先行研究により示されていた、LTP誘導に必要なNOシグナルと空間的に一致することが示された。これらの結果は、LTP誘導時に小脳プルキンエ細胞内で活性化されるNOシグナルとCaシグナルの間に強い関連性があることを示唆する。そこで平成19年度は、両シグナルの関連性を明らかにすることを目標に研究を行った。先ず、NOシグナルによりCaシグナルが活性化される可能性を検討するため、マウス小脳スライス標本においてNO供与体を細胞外から投与し、プルキンエ細胞内Ca濃度に与える影響をイメージング法によって調べた。その結果、NO供与体投与により、プルキンエ細胞内Ca濃度に上昇がみられることが明らかとなった。引き続き、平行線維刺激により産生される内因性NOによってもプルキンエ細胞内Ca濃度上昇が見られることが明らかとなった。さらに、NOシグナルがプルキンエ細胞内Ca上昇を引き起こす分子機構を解明する一環として、細胞内NO受容タンパクである可溶性グアニル酸シクラーゼの関与を調べた。しかし、可溶性グアニル酸シクラーゼの阻害薬等を投与したところNOシグナルによる細胞内Ca上昇に阻害効果は見られなかった。