著者
栗原 佑介
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.1099-1106, 2015-03-15

MOOC等のオープン型教育コンテンツや文化財(文化資源)のデジタルアーカイブ化が政府主導によって,推進または推奨されている.本稿では,このようなデジタルコンテンツの権利処理過程において,残存あるいは事後的に生成されうるパブリシティ権の問題点を明らかにする.特に,ピンク・レディー事件(平成24年2月2日)の最高裁判決をふまえ,なお残る論点との関係で言及する.パブリシティ権の問題は,学説判例によって権利性が承認されているが,立法化されていないため,権利範囲が明確ではないという問題点がある.しかし,パブリシティ権は,これまで知的財産法制との類似性が指摘されてきた.他方で,パブリシティ権は人格権法とも親和性があり,権利範囲について,知的財産権法制との関係では解決しきれない.そこで,この問題を解決するためには,前述した最高裁判決をもとに,権利侵害となる範囲を解釈によって明確にしなければならない.この際に,有効な手段が,憲法論的アプローチであり,財産的権利と人格的権利を区別する「二重の基準」論である.さらに,わが国著作権法においては,著作者人格権が規定され,実演家にも実演家人格権が認められているため,著作権者の権利制限規定の解釈もパブリシティ権の権利の制約を考えるうえでは有効である.Open educational contents, for example MOOC, cultural property or resources, have been archived by the government. This paper addresses the issue of the right of publicity in regard to rights clearance, and clarifies the limitations on this right. There are certain critical issues regarding this right since the Supreme Court of Japan provided a legal definition for the term on February 2, 2012. The definition is accepted in theory and there have been precedent cases, but it remains controversial. Thus, limitations on this right aren't uncommon. However, this right is related to intellectual property laws; it's also very similar to moral rights law. For solving the problem on the basis of the above-mentioned leading case, the scope of the infringement on the right of publicity as a moral right is clarified by the interpreter. I address the interpretation of the constitutional-law approach that distinguishes property rights from moral rights, which is a double standard that adversely affects the search for a solution to this problem. Second, the restrictions on copyright holders that are enshrined in copyright-law take advantage of an interpretation of the right of publicity, because copyright-law in Japan is tied to the moral rights of the performer.
著者
栗原 佑介
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.31-36, 2018 (Released:2018-08-21)

本稿は,障害者と著作権法の関係を明らかにする。障害者が著作物を利用するため,よりよい情報アクセシビリティの確保を図るべく,ソーシャルインクルージョンを考慮した制度設計を提案する。本稿では,まず,マラケシュ条約の概要,わが国著作権法の現状と課題を明らかにする。次に、障害は,機能障害と社会的障壁の相互作用によって生じていることから,情報アクセシビリティの確保の点からは,著作権の権利制限又は例外の制度設計においては,社会的障壁の除去を目指す必要がある。この観点から,「ソーシャルインクルージョン」の実現のため,著作権法も障害者福祉目的の包括的な権利制限規定を検討するなど,柔軟な制度設計が必要となる。