著者
宇野 耕平 吉永 和史 栗原 英明 矢永 勝彦
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.81, no.7, pp.1284-1288, 2020 (Released:2021-01-31)
参考文献数
16

食道穿孔を疑うZenker憩室内異物(有鈎義歯)を経験したので報告する.症例は84歳,男性.来院の1週間前に義歯誤飲を自覚したが,自然排泄を期待して自己判断で経過観察していた.頸部痛が持続し,食事摂取も困難なため来院した.頸胸部CTで頸部食道に義歯と食道左壁から連続する気腫像を認め,食道穿孔が疑われた.義歯は内視鏡で摘除可能であり,全身状態は安定していたため保存的に加療を行った.穿孔部の評価目的に施行した食道造影検査で咽頭食道憩室(Zenker憩室)が指摘された.有鈎義歯誤飲は,鋭利なクラスプ(鈎)が食道粘膜に刺入することで内視鏡での摘除が困難となり,さらに食道穿孔を併発して外科的治療が必要となることが多い.比較的稀な病態とは考えられるが,食道異物の診療を行う際は,Zenker憩室の併存と憩室内での異物停滞を念頭に置いて診療に当たることで,過大侵襲な治療を回避できる可能性がある.
著者
高木 正道 秋葉 直志 塩谷 尚志 栗原 英明 伊坪 喜八郎
出版者
特定非営利活動法人日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.10, no.5, pp.620-624, 1996-07-15

呼吸困難をともなったmassive thymic hyperplasia(以後,MTH)の1手術例を報告する.症例は27歳の女性で,数年前より左前腕部痛を自覚していた.最近になり呼吸困難と動悸が出現するようになった.胸部単純X線写真で左肺門部に突出する異常陰影を認め,胸部CTで前縦隔に不整形で内部濃度均一な腫瘤性病変を認めた.1992年6月22日腫瘤摘出術を施行した.腫瘤の重さは115g, 大きさは15.0×12.0×2.5cmで表面は平滑で黄褐色,分葉状であった.病理組織検査の結果では正常な胸腺構造を持つtrue thymic hyperplasiaであった.術後に自覚症状の改善を認めた.過去に報告されたMTHは21例で,年齢分布は7ヵ月から21歳である.自験例は27歳と最年長である.自験例を含めた22例の中で55%が有症状であり,このうち胸腺摘出術により72%で症状の改善がみられている.