著者
根来 健一郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.90-104, 1981
被引用文献数
1

琵琶湖ができたのは,今から450-500万年前の第三紀鮮新世のころであると言われている。最初の琵琶湖は伊賀上野盆地に存在したが,それが現在の琵琶湖がある位置,すなわち近江盆地に移動するまでに,琵琶湖は絶えずその湖底に堆積物,いわゆる湖底泥を形成し,それを夫々の時代に応じて湖が在った位置に残し続けてきた。この湖底堆積物は,琵琶湖固有の貝類化石を含み,粘土・砂・礫などから成るものであるが,その全体の厚さは1500-1800mに及び,伊賀上野附近から近江堅田附近まで,現在の琵琶湖の主として南部の丘陵に拡がっている。この堆積物を地質学では古琵琶湖層群と呼ぶ。古琵琶湖層群は数十枚の火山灰層を含んでいる。火山灰層は,数cmの薄いものから,1m以上の厚いものまで,さまざまであるが,これらの中で厚くて,しかも広く分布しているものは,地層の対比に役立つので,鍵層と呼ばれている。この鍵層を主たる拠りどころとし,更に埋蔵化石の種類などを考慮して,古琵琶湖層群は6つの累層に分類される。それらは古いものから,新しいものへの順に,島ケ原累層,伊賀油日累層,佐山累層,蒲生累層,八日市累層,堅田累層と称せられる。著者は1978年11月に,国立科学博物館の友田叔郎博士から古琵琶湖層群の比較的古い部分の資料を貰い,その中に含まれている化石珪藻について研究したところ,約11種類のものを見出すことができた。主なものとしては,約350万年前の伊賀油日累層からはMelosira islandica群とStephanodiscus carconensisが,約250万年前の佐山累層からはMelosira islandica群とStephanodiscus carconensisとStephanodiscus carconensis fo. maximaが,また約170万年前の蒲生累層からはMelosira undulataが認められた。Melosira islandica群と称するものは,現生のMelosira islandica O. MULLERとは形態的に可成り異るものであって,殻套上を大きい点紋の列が細胞の上下軸に平行して,10μm間に7-8本の割合に走るものがあるが,現生の琵琶湖の準固有種(semi-endemic species)のMelosira solida EULENSTEINは,この化石種群から由来したものと思われる。群として示し,主として同定しなかったのは,現在までに記載されているものの中で,M. canadensis HUST., M. pensacolae A. SCHMIDT, M. Goetzeana O. MULL., M. nyassensis O. MULL.などが,古琵琶湖層群のMelosiraの夫々1部に相当するのだが,古琵琶湖層群のものは細胞の大きさと形に相当の差異があるものであって,決して数種の混合したものとは認められないからである。従って,ここで群として示したのは暫定的な取扱いであって,将来1つの独立した種として同定することになる可能性のあるものと思って頂きたい。古琵琶湖層群のMelosira islandica群と全く同じものと思われるものが,北米のMontana州やOregon州の鮮新世の堆積物中から見出されている。しかしこれを研究したS. L. VAN-LANDINGHAM(1964-1972)は,Melosira granulataと同定しているが,これは誤りであって,北米のものもM. islandica系統のものであることに間違いないと思われる。古琵琶湖層群のStephanodiscus carconensisは,現生の琵琶湖の準固定種のそれとは多少異る。化石種はStephanodiscus niagarae var. intermediaに近いものであるが,現生種はこの化石種から由来したものと思われる。Stephanodiscus carconensis fo. maximaは,Stephanodiscus 属中の恐らく最大種であろうが,化石としてのみ存在し,現在生き残っているものはないであろう。Melosira undulataは,Melosira属中の巨大種で,現在は熱帯に生育しているだけであるが,第三紀には北半球全域に広く分布していたものと考えられている。
著者
根来 健一郎
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3-4, pp.139a-142, 1952-06-15 (Released:2009-11-13)
被引用文献数
1
著者
根来 健一郎
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.872-873, 1961-01

本研究に使用した材料は,第1次越冬隊の中野征紀・北村泰一両氏が採集せられたものを,第2次調査隊員吉井良三氏を経て貰い受けたものである.東オングル島....11種類の硅藻が発見されたが,硅藻群落の優占種は南極の陸水に固有なNavicula muticopsisであり,亜優占種は世界に広く分布するHantzschia amphioxysである.Navicula perpusillaがこれ等に次いで多い.又別の南極陸水固有種であるNavicula austroshetlandicaも出現するが,この種はここでは余り多くない.以上の陸水産種に混って,海産のCocconeis pinnata, Diploneis stigmosa,及びCoscinodiscus polyradiatusの3種が見出されるが,これ等は比較的に少い.ラングホブデ山地....16種類の硅藻が発見されたが,これ等の中でCocconeis pinnata,Cocconeis costata var. pacifica,Coscinodiscus polyriatus,及びNavicula cryptocevhalaが比較的に多い.硅藻群落は殆んど海産種で構成され,淡水産又は汽水産の種はここでは割合に少い.ユートレ島....9種の硅藻が見出されたが,硅藻群落の優占種乃至亜優占種はCoscinodiscus polyradiatusとCocconeis pinnataである.ここでも海産種と淡水産種又は汽水産種とが混合している.南極大陸の海岸地帯にある陸水の硅藻フロラが多くの海産種を含んでいることは,既にG.W.CARLSON (1913)によって指摘され,彼はこの事実を招来する原因は多分強風であろうと推論したが,このCARLSON氏の説は正しいと思われる