著者
伊藤 安浩 桂 直美 高井良 健一
出版者
大分大学教育学部
雑誌
大分大学教育学部研究紀要 = The research bulletin of the Faculty of Education, Oita University (ISSN:24240680)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.63-78, 2017-03

本研究の目的は,初任期の若手教師に対するナラティブ的探究を通して,初任期における教師の経験と成長の契機の一端を明らかにすることである。クランディニン(D. Jean Clandinin)らのインタビュースケジュールを参照し,教職3 年目の3 名の若手教師から個々のライフストーリーを聴き取った。データ分析の結果として見出されたのは,長い教職キャリアにおける初任期は,単に教職キャリアの開始期であるだけでなく,養成期との連続性を持った特別な時期だということである。また,初任期においても,どのタイミングで結婚,妊娠や出産をするかを考えながら展開する女性教諭のキャリアは,男性教諭のそれとは異なる。今後の調査に必要な視野や視点として見出されたのは,養成期の学生が教師になっていくプロセスの複雑さと多様性を包含する広い視野を持つこと,そして,この種の調査に協力する中で,自分の経験を振り返りそれを言語化することが初任期の教師に何をもたらすのかという視点である。The Purpose of this study is to describe some of beginning teachers' experiences and the opportunity for their development through their narratives. We used the interview schedule that consists of 16 questions developed by D. Jean Clandinin et al. (2012) for data collection. We tailored it to the Japanese school environment and conducted semi-structured interviews with 3 beginning teachers in their third year of teaching. As a result, we found that the novice period in the teaching profession is a special period that merges the training period at university with the early days of teaching. Furthermore, the career development of the female beginning teacher was reported to be different from that of the male teachers in that the female teacher considers the timing of her marriage, pregnancy and childbirth. In order for further progress in this research field, we argued the significance of having a perspective that encompasses the complexity and diversity of the process of becoming a teacher, as well as the benefits of reflective interaction with interviewers on teacher development in the beginning stages.
著者
桂 直美
出版者
日本教育方法学会
雑誌
教育方法学研究 : 日本教育方法学会紀要 (ISSN:03859746)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.59-70, 2010-03-31

本稿は,学校教育の枠組みにおいて生徒の芸術表現の力を育てる授業方法として「ワークショップ授業モデル」を再構成し,アクションリサーチを通して,学校教育における授業モデルとしての有効性を検証しようとするものである。近年,幅広い教育場面で支持を集めている「ワークショップ」は,「参加体験型のグループ学習」と理解され,授業者の役割が明確でないために,学校教育の場において学びの深まりを保障する授業モデルとなり得ていない。本稿では,米国の高等教育においてアカデミックな学びを追求したワークショップ実践の源流としての「クリエイティブライティング」の授業を,参加観察と学生のインタビューによって分析し,授業における教師の役割を規定し,さらに授業モデルとしてワークショップを中学生の授業への適用のために再構成した。次に,このモデルを中学校の表現の授業に適応するアクションリサーチを行い,生徒の学びと授業者の意識の転換を,自由記述とインタビューを通して分析した。ワークショップ授業の成立には,教師が高い内容知や技能を持ち,自己の鑑識眼と批評を惜しみなく開示することで,生徒から見てモデルとして機能していることが重要であることが示された。また,学び手を評価主体として位置づけ,学習者における「鑑識眼と批評」の力の成長を学習内容とすることで,近代の「学校化された学び」が編み直される様相が明らかになった。