著者
鈴木 篤
出版者
大分大学教育学部
雑誌
大分大学教育学部研究紀要 = The research bulletin of the Faculty of Education, Oita University (ISSN:24240680)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.233-243, 2018-02

本稿ではJ.ハーバーマスのコミュニケーション的行為の構想に基づく道徳授業方法に備わる限界と可能性の検討を行った。彼の理論に基づくならば,討議(Diskurs)において目指される合意が可能となるためには,前提としていくつかの条件が満たされている必要がある。しかし,これらの条件が満たされるというのはあくまでも先取りとしての想定においてに過ぎない。N.ルーマンはハーバーマスの構想を批判し,討議においては参加者間の力が対等たりえないこと,それゆえ彼らがコミュニケーション的合理性にはたどり着き得ないことを主張する。ルーマンに基づくならば(ハーバーマスの主張とは異なり),討議においては論理的優越性を備えた討議参加者こそが勝利を収めるのである。ルーマンの批判により,我々はコミュニケーション的行為の構想に基づく道徳授業方法の修正の道を見出すことが可能となるが,この修正によってこそ同授業方法はその可能性を再獲得することが可能となるのである。
著者
伊藤 安浩 桂 直美 高井良 健一
出版者
大分大学教育学部
雑誌
大分大学教育学部研究紀要 = The research bulletin of the Faculty of Education, Oita University (ISSN:24240680)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.63-78, 2017-03

本研究の目的は,初任期の若手教師に対するナラティブ的探究を通して,初任期における教師の経験と成長の契機の一端を明らかにすることである。クランディニン(D. Jean Clandinin)らのインタビュースケジュールを参照し,教職3 年目の3 名の若手教師から個々のライフストーリーを聴き取った。データ分析の結果として見出されたのは,長い教職キャリアにおける初任期は,単に教職キャリアの開始期であるだけでなく,養成期との連続性を持った特別な時期だということである。また,初任期においても,どのタイミングで結婚,妊娠や出産をするかを考えながら展開する女性教諭のキャリアは,男性教諭のそれとは異なる。今後の調査に必要な視野や視点として見出されたのは,養成期の学生が教師になっていくプロセスの複雑さと多様性を包含する広い視野を持つこと,そして,この種の調査に協力する中で,自分の経験を振り返りそれを言語化することが初任期の教師に何をもたらすのかという視点である。The Purpose of this study is to describe some of beginning teachers' experiences and the opportunity for their development through their narratives. We used the interview schedule that consists of 16 questions developed by D. Jean Clandinin et al. (2012) for data collection. We tailored it to the Japanese school environment and conducted semi-structured interviews with 3 beginning teachers in their third year of teaching. As a result, we found that the novice period in the teaching profession is a special period that merges the training period at university with the early days of teaching. Furthermore, the career development of the female beginning teacher was reported to be different from that of the male teachers in that the female teacher considers the timing of her marriage, pregnancy and childbirth. In order for further progress in this research field, we argued the significance of having a perspective that encompasses the complexity and diversity of the process of becoming a teacher, as well as the benefits of reflective interaction with interviewers on teacher development in the beginning stages.
著者
立川 研一
出版者
大分大学教育学部
雑誌
大分大学教育学部研究紀要 = The research bulletin of the Faculty of Education, Oita University (ISSN:24240680)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.301-312, 2020-03

日本人初級学習者は,「理由」を表す接続詞としてbecauseを好んで使用することが知られている。また,中学生や高校生の従属接続詞'because'の使用については,母語話者とは異なった使用傾向や誤用がしばしば見られる。本稿では,日本人学習者コーパスと母語話者コーパスを比較し,日本人初級学習者のbecause の使用傾向や誤用について調査しその原因の分析を行う。併せて,小・中学校や高校における,より適切なインプットや指導の在り方について提案する。
著者
花坂 歩 永田 誠
出版者
大分大学教育学部
雑誌
大分大学教育学部研究紀要 = The research bulletin of the Faculty of Education, Oita University (ISSN:24240680)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.47-58, 2016-09

本稿は社会教育施設における読書活動推進事業を視察・検討したものである。読書教育は,もはや学校の教育活動に限定されるものではなく,家庭教育,地域教育との連携によって推進されるべきものとなった。今回,北海道立青少年体験活動支援施設ネイパル厚岸の読書活動推進事業「ネイパルブックワールド」に参加し,子どもたちが学校の外でどのような読書活動を体験しているのかを視察した。そこでの子どもたちは,読書を生活の一部とし,緩やかな読書コミュニティを形成していた。見出された課題は,読書を指導する専門スタッフの不在と施設間連携の不均衡である。子どもを自立した読者へと育てていくためには,様々な機関が協働して読書教育を行っていく必要がある。「ネイパルブックワールド」の視察と考察によって,そうした課題を具体的に見出すことができた。We're working on basic research to create a reading community. Wefocused on a reading education program carried out by a social education facility. We believe that it is necessary to establish connections between school education, home education, and local education. We had observed the reading done by children in the "Napal Book World" that took place in Hokkaido. the children there were enjoying reading as a part of their lives. However, there were two issues which need to be addressed. One is that there was no Reading Teacher available. The other is that the facilities were not connected with each other. In order to raise a child as a "Reader", it is necessary to link the various organizations. In this survey, we were able to expose various issues related to the improvement of "Reading education".