著者
竹下 輝和 益田 信也 前田 隆 桑原 俊隆
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅建築研究所報 (ISSN:02865947)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.129-138, 1988

個室化は近代住居においてさけられない現象であるが,問題は,個室とその対置的関係にある居間との適切な使い分けの行動様式を住生活において確立することにあると考えられる。そこで,本研究は,わが国における「居間」の空間概念を歴史的に考察するとともに,現在の「居間」がだんらんの空間としてどのように機能しているか,また,家族成員のそれぞれに「居間」がどのような性格を持つ空間として意識されているのか,さらに,「居間」での行為に住み手の家族関係,特に,親‐子関係がどのように反映されているかを明らかにして,今後の「居間」の在り方と問題点を住文化論的に考察したものである。「居間」の呼称の史的分析,46世帯を対象とした立体的住生活詳細調査(内8世帯でビデオ撮影)の結果,以下のことを明らかにした。①「居間」の空間慨念を,明治以降現在まで出版された国語辞典を手掛かりにして分析した結果,主体系=夫・妻の居室としての居間,総括行為系=家族のだんらんの空間としての「居間」に分かれること。次に,住宅関係の書籍にて,こうした居間の空間概念の変化を歴史的に分析した結果,夫人の居室としての居間がだんらんの空間としての「居間」に変化したこと。②現在の「居間」における住生活時間量と住生活行為種の持ち込みを分析した結果,親の比重が大きいこと。こうした傾向は主寝室の空間的な確立条件とは関係なく,「居間」が特に父親の居場所として機能していること。つまり,「居間」が家族のだんらんの空間として機能しながらも,空間概念的には親の主体系の性格を強く残していること。③この結果,子どもの住生活の中心が子ども部屋につくられることになり,この傾向が顕著になると家族コミユニティー上問題をつくること。「居間が総括行為系として機能するには主寝室を親の主体系の空間として機能させるような行動様式を確立するとともに,家族の人間関係における子ども中心主義の成立が求められること。