著者
矢吹 朗彦 木村 晋亮 桑原 惣隆
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.30, no.12, pp.p1681-1686, 1978-12

著者は,無脳症の発生要因として,遺伝的因子を基盤に,サイトメガロウイルス(CMV)とコクサッキーウイルスB (Cox B)の重複感染が関与する可能性について報告を行つて来た.本稿では,正常児妊娠母体と無脳症妊娠母体に於ける両ウイルス抗体保有の比較,及び無脳症娩出後再妊娠経過中の母体血中の両ウイルス抗体価の推移と分娩結果について検討した. 無脳症妊娠母体群のCMVとCox Bタイプ4及び5 (Cox B-4,5)の補体結合反応(CF)抗体保有率は,各々92.3%と76.9%であり,両ウイルス抗体同時保有率は69.2%であつた.一方,正常児妊娠母体群に於ける上記抗体保有率は,各々52.5%,12.5%及び5.0%であり,2群には明らかな差が認められた. 無脳症娩出後非無脳児を出産した母体3例に於ける血中CMV抗体は,妊娠経過での追跡調査で,CMV潜伏性持続感染を裏ずける価を持続していた.しかしながら,Cox B抗体は陰性化し,再妊娠経過中,本ウイルス感染が胎芽に影響を及ぼした事実は認められなかつた. 以上の結果から,持続感染,即ちヒト染色体上に組み込まれたCMV遺伝子が,妊娠及びCox Bらのウイルス感染の条件下で誘発活性化され,無脳症発生の共通baseとして共存するgenomeと結びつく時,宿主細胞をteratogenicな方向へtransformする能力を有して来ると推定された.
著者
矢吹 朗彦 杉浦 幸一 加藤 俊明 桑原 惣隆 木村 晋亮
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.29, no.8, pp.913-921, 1977-08-01

1974年から1975年にかけ,石川県七尾市を中心とした無脳症の集中的多発的発生を見,能登地方をはじめ北陸三県に於ける本症の疫学的調査と病因的ウイルス感染の存在について検討し,次の結果を得た. (1) 1975年迄の過去5年間で,石川県を中心とした北陸三県に於いて78例の無脳症が確認された. (2) 本症の男女比 : 41対35(75例調査,双胎1例),初産経産婦比 : 26対31(57例調査)であつた. (3) 妊娠初期経過(24例調査) : 無症状3,悪阻9,感冒及び発熱9,性器出血8及び糖尿病2例あり,16例が投薬を受けた. (4) 無脳症娩出後,次の妊娠分娩を追跡し得た12例は正常児分娩9,反復無脳児分娩3であつた. (5) その他の事項として,羊水過多症11(27例中),双胎無脳症1,母体疾患として糖尿病2,心疾患1,精神分裂症1例があつた. (6) 1975年迄の過去5年間の北陸三県に於ける無脳症罹患率は,平均0.08〜0.4%であり,最高は七尾市能登病院の0.4%で,その発生には地域的集中傾向がうかがわれた. (7) 年次的には1974-1975年に多発傾向を見,しかも1974年に妊娠初期を経過したものが多数を占めた.年次的最高罹患率は,能登病院の1974年に於ける0.6%であつた, (8) 10症例の無脳症及びその両親の血清22検体について,ウイルスHI抗体価11項目とCF抗体価20項目について検査し,抗サイトメガロウイルス抗体を19検体に,抗コクサッキーBウィルス4及び5型抗体を,夫々21及び20検体に証明した. (9) 結論として,無脳症の発生病因は,まず遺伝的因子の存在(又は欠除)が考えられ,さらにそれを誘発する要因として,サイトメガロウイルス及びコクサッキーBウイルスの重複感染があり得ると推論された.
著者
高林 晴夫 桑原 惣隆 浮田 俊彦 山藤 薫 伊川 和美
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.149-152, 1997-03-01
被引用文献数
4

近年, 新しい胎児DNA診断法として母体血中の胎児有核細胞によるDNA分析が強い関心を集めている. 標的細胞として胎児白血球, 胎児有核赤血球, 絨毛細胞が考えられるが, なかでも実際には胎児有核赤血球を標的とした研究が多く進められている. 我々は以前に母体血中の胎児有核赤血球の回収法として, 新しくPercoll不連続密度勾配比重遠心法を開発し報告を行ってきたが, 今回, 本法を用いて母体血中への有核赤血球の出現状況を正常妊婦91例, 正常褥婦19例, コントロール20例について検討を行った. その結果, 健康成人男女20例からは有核赤血球の出現はみられず, 母体血中からは妊娠5週よりその出現がみられ始め, 8週以降は全例にみられた. 母体血(7ml)中に出現する有核赤血球数についても検討を行った. 妊娠初期では5週より出現がみられ, 20週に向けて漸増し, 中期では平均20個台で推移し, 分娩前に急増し, 分娩後は速やかに減少する傾向を示した. 以上より, 母体血中の胎児有核細胞による胎児DNA診断を進める場合, 胎児有核赤血球を標的細胞とすることの有用性が示された.