著者
桧山 亮 折橋 健 小島 康夫 寺沢 実 鴨田 重裕 高橋 康夫
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P3047, 2004

1、目的 エゾシカ(以下シカとする)の嗜好性とそれが生じる要因を研究することは樹皮剥ぎ害対策のための重要な情報になると考えられる。本研究では特に樹皮の物理的な発達がシカの嗜好性に与える影響を調べるためにハリギリ丸太を用いて樹皮の剥ぎ難さの測定と野外摂食試験(Orihashi et al., 2002)およびハリギリ丸太から調製した樹皮片の摂食試験を行った。2、試験方法1)試験材料 2003年3月上旬に東京大学北海道演習林(以下北演)でハリギリ2個体(DBH17.5cm、27cm)を伐採し、樹幹及び枝の直径1_から_18cmの部分から長さ1mの丸太を調製した。丸太は長さ40cmと60cmに切り分けて前者を樹皮剥ぎ抵抗値測定用、後者を野外摂食試験用とした。丸太は切断面において直径と樹皮の厚さを0.1mm単位で測定した。2)抵抗値の測定 【剥がし抵抗値測定】大井(1999)の剥皮試験の方法を参考に、樹幹方向に15cm×1.5cmの切込みを樹皮にいれて周囲の樹皮と切断し、端から5cmの部分を剥がして掴み、残りの10cmの部分を約10秒かけて引き剥がし、デジタルひずみ測定器(共和電業製)を用いて応力を計測して剥がし抵抗値とした。【刺し込み抵抗値測定】マイナスドライバー様の型をしたステンレス製の擬似シカ門歯をデジタルひずみ測定器に取り付けて、丸太の接線方向に対しては垂直に、樹幹方向に対しては約30度の角度から刺し込み、応力を測定して刺し込み抵抗値とした。各測定では1試験体(丸太)につき5回計測を行い、平均した。3)摂食試験 【抵抗値と嗜好性】摂食試験用の丸太を北演の林道沿いに設けた試験サイト(20m×5m)にランダムに並べて直立させて3月下旬の10日間(樹皮剥ぎ被害期間)シカに自由に摂食させて剥皮された面積を測った。【樹皮片の摂食試験】直径12_から_17cmのハリギリ丸太から一辺が3cm程度の方形樹皮片を3種類(内樹皮のみ、外樹皮のみ、外樹皮つき内樹皮(以下全樹皮とする))調製した。この3種類を1組として9反復用意し、それぞれ生重量で40gずつプラスチックの容器にいれて摂食試験を行った。試験中は一日一回観察し、組の中でどれかが半分以上減っていたらその時点で回収して残ったものの生重量を測定した。試験前後の様子を撮影し、食べられ方の様子を比較した。3、結果【抵抗値と嗜好性】摂食試験で剥皮が確認された丸太は剥がし抵抗値が2kgf以下、刺し込み抵抗値が6kgf以下のものがほとんどであった(図)。丸太の直径(cm)に対する樹皮厚さ(mm)の関係は内樹皮がy=0.31x+2.44, R2=0.76、外樹皮がy=0.99x_-_0.77, R2=0.84(共に単回帰分析、P<0.01)であった。直径(cm)と樹皮剥ぎ抵抗値(kgf)の関係は剥がし抵抗値でy=0.26x+0.39, R2=0.85、刺し込み抵抗値でy=0.77x+1.90, R2=0.88(共に単回帰分析、P<0.01)であった。【樹皮片の摂食試験】試験前後での試料の減少量(生重量)は内樹皮片で38.9g(±0.3)、全樹皮片で20.8g(±10.3)および外樹皮片で4.0g(±3.0)であった。内樹皮片と外樹皮片の間で減少量に有意な差が存在した(Tukey型多重比較、P<0.05)。4、考察 抵抗値と嗜好性の試験結果より、樹皮を剥がす際の抵抗値が大きな丸太の樹皮をシカがほとんど食べていないことから、樹皮の物理的な抵抗がシカの樹皮剥ぎに影響を与えていることが予想できる。丸太の直径と樹皮厚さと抵抗値には高い正の相関が見られた。樹皮厚さは直径が大きくなると特に外樹皮が発達する。外樹皮にはシカにとって栄養にならないリグニンが多く含まれ(安井、2002)、樹皮全体に占める外樹皮の割合が高くなると樹皮中のリグニン量は増加することになる。直径が大きくなった時にシカの嗜好性が下がる(小島ら、2003)主な要因として少なくとも上述の2つ(樹皮剥ぎ抵抗値、リグニン量)が考えられた。樹皮片の摂食試験結果において内樹皮片が外樹皮片よりもよく食べられたことからシカが樹皮を食べる時には内樹皮を目的としていることが示唆された。全樹皮片は中間的な食べられ方と観察された。この試験はシカが通常好まない太さで抵抗値も大きな丸太から調製した樹皮片を用いたが、人為的に剥ぎ難さを排除して供試すると食べられた。このことから剥ぎ難さがシカの嗜好性に影響をしていると言えるだろう。しかし、全樹皮片は内樹皮片よりも食べられ方が少なかったことから剥ぎ難さを排除しても外樹皮の存在により嗜好性を下がったと考えられる。