著者
梅山 香代子
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.10, pp.125-136, 2002-03-15

戦後,日本が米国から受けた影響のなかでも刑事訴訟に関するものは大きいものであった。大日本帝国憲法から日本国憲法へと変化する中で,人権尊重が根本原理とされ,戦前はほとんど無視されていた刑事被告人や被疑者の人権を保護することが重要視された。これに基づいて制定された新刑事訴訟法と相俟って,日本における刑事訴訟は,人権尊重を基調として新たに出発することになった。 現在,日本国憲法で保障されている刑事事件の被疑者,被告人の権利は,合衆国憲法修正条項に由来するが,運用の面ではそれぞれの社会状況の応じて異なっている。第一に,陪審制度を原則とする米国では,法廷における口頭弁論を中心とするため,被疑者,被告人の反論の場を確保することを重要視する。これに対して,陪審制が根づかず,書面が中心となっている日本の裁判においては,被疑者の身柄の拘束や証拠収集,自白の信頼性などに厳しい要件を課している。 第二に,運用面で見れば,敗戦という事実によって米国主導で導入された憲法による人権保障は,日本国民にその精神が容易に理解され得ず,その理解のためには,一層の努力を要する。これに対し,米国では社会の拡大に伴い,根強い人種問題を抱えることになり,アメリカ合衆国憲法制定当時には予想しなかった事態が刑事訴訟の面でも問題とされるようになった。 それぞれの国の実情に応じて人権の保障を充実行くことが要請されている。