著者
小林 大祐
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.63-78, 2021-02-15

本稿はドイツの住民投票制度を対象として、地方自治体の意思決定にどのような影響を与えているかについて検討するものである。まず、ドイツの住民投票制度について、日本の制度と対比しながら説明する。そのうえで、ドイツの住民投票制度を分析した先行研究を繙き、拒否権、地方自治体の政治構造、発議や住民投票の数ならびに要件が鍵となる要素であることが抽出される。これらに基づいて、具体的なドイツの住民発議と住民投票のデータを分析していく。その結果、住民発議の対象の広さが数に大きく作用すること、地方自治体の人口規模が数に大きく作用すること、また地方自治体の政治構造が強く作用しており、地方自治体における政治アクターが競争的であれば、住民発議の数が多くなることが明らかになった。
著者
山本 博子
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.29, pp.9-25, 2021-02-15

本稿では、『古今和歌集』における過去表現について検討した。本稿において、過去表現とは、過去の助動詞「き」、完了の助動詞「ぬ」と過去の助動詞「き」の複合形式「にき」、完了の助動詞「つ」と過去の助動詞「き」の複合形式「てき」を指す。 平安時代の時間表現についてはすでに様々な議論が重ねられてきたが、資料や用例の扱い方においては各研究によって様々であった。したがって、本稿では、平安時代の言葉の実態をさらに詳細に解明していくための試みとして、用例を『古今和歌集』の和歌のみに限定して検討を行なった。 その結果、動詞の分布状況やアスペクト的意味・空間的意味において、平安時代の物語作品の会話文における用法と大きな違いがないことがわかった。したがって、アスペクト的意味や空間的意味について検討する場合は、基本的には、同時代の物語の会話文と和歌の例を同等に扱ってもよいということを示すことができた。 しかし、一人称移動動詞の例については、物語の会話文と和歌において同様の傾向が見られなかった。このことから、動詞によっては、自分の気持ちや状況を表すことが多い和歌と、自分の行動について取り上げることも多い物語の会話文とで、用法の違いが見られることを示唆することができた。
著者
津村 敏雄
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.142-163, 2020-02-28

文部科学省は,平成25年度から全国の公立の小学校・中学校・高等学校(義務教育学校・中等教育学校を含む)を対象として「英語教育実施状況調査」を実施している。調査は毎年12月に行われて結果は翌年度の春に公表されている。平成30年度の主な調査項目は,小学校における英語担当者の現状,生徒(中学生・高校生)の英語力,生徒の英語による言語活動の状況,パフォーマンステストの実施状況,「CAN-DOリスト」による学習到達目標の設定等の状況,英語担当教師の英語使用状況,英語教師の英語力,ALT等及びICT 機器の活用状況,小学校と中学校の連携に関する状況となっているが,過年度の調査項目には,共通しているもの,加減されているもの,単発で行われているものがある。本稿では,ほぼ毎回共通している項目として,生徒(中学生・高校生)の英語力,英語教師の英語力,「CAN-DOリスト」による学習到達目標の設定等の状況,ALT等及びICT機器の活用状況を取り上げて,過去6年間の経年変化の考察を行った。その結果,大半の項目で全国平均においては概ね良好な傾向にあるものの,都道府県や政令指定都市の地方自治体によるばらつきがあることなど,今後さらに改善していく必要性があるということが明らかになった。
著者
松本 純一
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.12, pp.29-38, 2004-03-15

近年日本語の話し言葉でよく聞かれる「~円からお預かりします」という言い回しに関して,その表現の成立と存在意義について,生成文法を始めとする理論言語学及び普遍文法の観点から考察する。結論として,この表現は本来助詞が存在しなくてよい部分に,丁寧さを高めるために日本語におけるデフォールトな後置詞「から」が挿入されたものであるという説明を提案する。この結論を支持する根拠として,現代日本語文法論における構造格と内在格との区別・日本語の後置詞「から」が持つ独自の性質・他言語における格体系・英語におけるデフォールトな前置詞などの言語現象を取り上げる。
著者
梅山 香代子
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.10, pp.125-136, 2002-03-15

戦後,日本が米国から受けた影響のなかでも刑事訴訟に関するものは大きいものであった。大日本帝国憲法から日本国憲法へと変化する中で,人権尊重が根本原理とされ,戦前はほとんど無視されていた刑事被告人や被疑者の人権を保護することが重要視された。これに基づいて制定された新刑事訴訟法と相俟って,日本における刑事訴訟は,人権尊重を基調として新たに出発することになった。 現在,日本国憲法で保障されている刑事事件の被疑者,被告人の権利は,合衆国憲法修正条項に由来するが,運用の面ではそれぞれの社会状況の応じて異なっている。第一に,陪審制度を原則とする米国では,法廷における口頭弁論を中心とするため,被疑者,被告人の反論の場を確保することを重要視する。これに対して,陪審制が根づかず,書面が中心となっている日本の裁判においては,被疑者の身柄の拘束や証拠収集,自白の信頼性などに厳しい要件を課している。 第二に,運用面で見れば,敗戦という事実によって米国主導で導入された憲法による人権保障は,日本国民にその精神が容易に理解され得ず,その理解のためには,一層の努力を要する。これに対し,米国では社会の拡大に伴い,根強い人種問題を抱えることになり,アメリカ合衆国憲法制定当時には予想しなかった事態が刑事訴訟の面でも問題とされるようになった。 それぞれの国の実情に応じて人権の保障を充実行くことが要請されている。
著者
中村 哲之
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.29, pp.1-8, 2021-02-15

ヒトを含めた多くの動物は、その脳機能の制約上、ありのままの世界を認識することはしない。それを端的に示す心理現象の1つとして、Goodale, & Milner(1992)は、ヒトの眼はエビングハウス錯視図によって騙されるが、指先の運動機能は騙されないことを示した。また、価値観といった比較的高次な認知機能が知覚の歪みを生じさせる研究も行われている(Bruner & Goodman, 1947 ; 川名・齋藤,2008 など)。本研究では、これらの先行研究を参考に、価値観が知覚・動作に与える影響について検討した。動作条件では、実験協力者に1円硬貨や500 円硬貨などを想像してもらった後で、利き手/非利き手でそれらを想像上で掴んでもらい、その際の親指と人差し指の開き具合を測定した。描写条件では、それらの硬貨の大きさを描いてもらった。実験の結果、動作条件の利き手と描写条件では価値の違いによる硬貨サイズに対する過大・過小知覚が確認されたのに対し、動作条件の非利き手では、それらの効果が消失した。この結果が生じた可能性について、日常生活における動作の特徴の観点から議論を展開した。
著者
光川 眞壽
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.118-127, 2020-02-28

本研究は,若齢者を対象としたレジスタンストレーニングの短縮性収縮(CON)局面および伸張性収縮(ECC)局面の動作速度が筋肥大に及ぼす影響を明らかにすることを目的として文献レビューを行なった。文献調査の結果,7つの論文が抽出され,それらの論文を各局面の動作速度で分類すると,1)CON 局面とECC 局面両方を遅くする方法(3論文),2)CON 局面のみを速くする方法(2論文),3)ECC 局面のみを遅くする方法(2論文)の3条件に分けられた。50%1RM程度のトレーニング強度の場合,1)の条件においては,各局面が1秒よりも3秒以上かけてトレーニングした方が筋肥大することが明らかとなった。一方,67%-85%1RM程度の強度を用いたトレーニングの場合,1)および2)ともに各局面において1-3秒程度の動作時間であれば筋肥大の程度に大きな違いがないことが示された。3)の条件においては,一致した見解が得られておらず,更なるエビデンスの蓄積が必要であることが示唆された。
著者
前原 鮎美 前原 正美
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.29, pp.103-121, 2021-02-15

菅義偉首相の提示した政治経済政策であるスガノミクスにおいて,最も際立った特徴は,生活必需品の価格引き下げを実施する,という点にある。アベノミクスにおいては,「円高・デフレ脱却」をスローガンとして,貨幣供給量の増大によってインフレ期待を巻き起こし,有効需要の増大→企業の商品生産の増大→貨幣賃金の増加→実質賃金の増加→景気回復という方向を見定め,同時にまた円安の進行→輸出産業の利益増大→株価の上昇→民間設備投資の増大→生産規模の拡大→労働雇用量の増加→貨幣賃金の増加→実質賃金の増加という方向性を見定めて,インフレーション(物価上昇)によって景気回復を図る政治経済政策を展開した。安倍前首相は,こうしたアベノミクスの異次元の金融政策の施行によって,インフレ→景気回復の実現可能性を見出した。しかし,菅首相は,スガノミクスにおいて,生活必需品価格の引き下げ→貨幣賃金一定の下での実質賃金の増加→豊かな国民生活の実現というデフレーション効果に期待する方向性を打ち出したのである。 企業の社会的使命は,①自社のサービスや商品を社会的に提供し,「お客様に喜んで頂く」ということを具体的に社会全体に経営理念として示すこと,②従業員に対する適切な人材教育を施し,従業員一人ひとりが仕事に対する自らの生きる喜び,仕事に対する使命感をもって従事することの重要性を認識させること,③従業員と顧客との良好な人間関係の形成によって,顧客が従業員に感謝し,企業のリピーターとなって新たな顧客を創造させるということ,にある。これこそまさに,J. S. ミルが主張した企業経営者と従業員と顧客(社会)との3つのトライアングルによって創造される企業利益増大の好循環のサイクルである。 利益と社会的貢献との両立という方向性での景気回復を図るには,企業における《「共助」の経営組織改革・経営戦略》が不可欠となる。
著者
小林 広直
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.27, pp.13-25, 2019-02-28

This paper explores the way in which Thomas Kilroy uses Bertolt Brecht's V-effects (Verfremdungseffekt) in his adaptation of Luigi Pirandello's Six Characters in Search of an Author (1996) and Double Cross (1986). In a 1984 article, Kilroy describes Brecht, Beckett, and Pirandello as modern dramatists who try to overturn the then dominant theatrical tendency of realism by highly sophisticated stylisation. Both plays discussed here can be seen as examples of Kilroy's application of Brechtian V-effects, which defamiliarises the ordinary rules of the theatre, makes things seem strange and, in the end, enables us to see the world differently. Characters in each play are acutely aware of their roles as fictional characters (in Six Characters) and historical figures (in Double Cross). The self-referential meta-theatricality of both works is heightened by using two theatrical techniques: video screens and addressing the audience. These techniques question the reality of the events happening both on the stage and in history. Through this comparative analysis, we can understand what Kilroy learned from Brecht in order to "create a public theatre," which has been a longstanding cultural issue in Ireland since the foundation of the Abbey Theatre, and to fulfill his early dreams as a writer.
著者
堀口 真宏
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.48-62, 2021-02-15

本論文では,救援・支援者の心理的負担に関する先行研究についてバーンアウトとPTSD という観点からレビューを行い,その中でも海岸救援者,東日本大震災の災害支援者の立場における心理的負担について考察を行った。まず,救援・支援者は日々の仕事の業務に持続的に関わることから生じうる業務上のバーンアウトが考えられる。また,持続した緊張感の下で業務が行われる状態の中で「衝撃的な救助・出来事」に対峙したとき,同じ救援・支援者の立場にいる彼らには,PTSD 傾向も考えられ,彼らの心理的負担を理解する上で双方の概念からの理解が不可欠と考えられる。このようなことから,まずバーンアウトとは何か,PTSD とはどのような症状を呈するのかのついての概観を行った。そして第3節では,救援・支援者における心理的負担について主にどのような研究がなされてきたかレビューを行い,彼らの心理的負担の意味付けについての捉えなおしという点から考察を行った。