著者
小林 大祐
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.63-78, 2021-02-15

本稿はドイツの住民投票制度を対象として、地方自治体の意思決定にどのような影響を与えているかについて検討するものである。まず、ドイツの住民投票制度について、日本の制度と対比しながら説明する。そのうえで、ドイツの住民投票制度を分析した先行研究を繙き、拒否権、地方自治体の政治構造、発議や住民投票の数ならびに要件が鍵となる要素であることが抽出される。これらに基づいて、具体的なドイツの住民発議と住民投票のデータを分析していく。その結果、住民発議の対象の広さが数に大きく作用すること、地方自治体の人口規模が数に大きく作用すること、また地方自治体の政治構造が強く作用しており、地方自治体における政治アクターが競争的であれば、住民発議の数が多くなることが明らかになった。
著者
阿部 一
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.25, pp.51-66, 2017-03

日本文化には,心理学や宗教学の観点から母性的な特徴があると指摘されてきた。それは,他者との一体感を求め,場の平衡状態を維持しようとする傾向である。本稿では,この特徴がどのように成立し,日本の文化的伝統に織り込まれ,受け継がれてきたのかを,環境と人間集団の関係である風土の観点から明らかにした。文化とコミュニケーション行為は一体であるため,文化の特徴は,コミュニケーションの「かまえ」という観点からとらえられる。古代日本人のかまえは,モンスーンアジアの風土に根差した母性優位の家族システムにおいて生まれた「場志向・共感型」の母性的かまえである。このかまえに適応した言語である日本語は,「述語中心」「文脈的」「話題優位型」の構造と,自然との一体感を反映する語彙をもち,そのやりとりを通じてかまえは家族内で親から子へと受け継がれた。さらに,自然という場に目を向け,それと共感的にかかわる中から歌が生まれ,それが日本の文芸の中核となることで,母性的かまえは家族システムの外部においても文化的に支えられることになった。したがって,日本文化の母性的傾向の起源はモンスーンアジアの風土性にあり,その傾向は「環境」「かまえ」「ことば」の安定的な三項関係に支えられ継承されてきたと考えられる。
著者
山本 博子
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.29, pp.9-25, 2021-02-15

本稿では、『古今和歌集』における過去表現について検討した。本稿において、過去表現とは、過去の助動詞「き」、完了の助動詞「ぬ」と過去の助動詞「き」の複合形式「にき」、完了の助動詞「つ」と過去の助動詞「き」の複合形式「てき」を指す。 平安時代の時間表現についてはすでに様々な議論が重ねられてきたが、資料や用例の扱い方においては各研究によって様々であった。したがって、本稿では、平安時代の言葉の実態をさらに詳細に解明していくための試みとして、用例を『古今和歌集』の和歌のみに限定して検討を行なった。 その結果、動詞の分布状況やアスペクト的意味・空間的意味において、平安時代の物語作品の会話文における用法と大きな違いがないことがわかった。したがって、アスペクト的意味や空間的意味について検討する場合は、基本的には、同時代の物語の会話文と和歌の例を同等に扱ってもよいということを示すことができた。 しかし、一人称移動動詞の例については、物語の会話文と和歌において同様の傾向が見られなかった。このことから、動詞によっては、自分の気持ちや状況を表すことが多い和歌と、自分の行動について取り上げることも多い物語の会話文とで、用法の違いが見られることを示唆することができた。
著者
津村 敏雄
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.142-163, 2020-02-28

文部科学省は,平成25年度から全国の公立の小学校・中学校・高等学校(義務教育学校・中等教育学校を含む)を対象として「英語教育実施状況調査」を実施している。調査は毎年12月に行われて結果は翌年度の春に公表されている。平成30年度の主な調査項目は,小学校における英語担当者の現状,生徒(中学生・高校生)の英語力,生徒の英語による言語活動の状況,パフォーマンステストの実施状況,「CAN-DOリスト」による学習到達目標の設定等の状況,英語担当教師の英語使用状況,英語教師の英語力,ALT等及びICT 機器の活用状況,小学校と中学校の連携に関する状況となっているが,過年度の調査項目には,共通しているもの,加減されているもの,単発で行われているものがある。本稿では,ほぼ毎回共通している項目として,生徒(中学生・高校生)の英語力,英語教師の英語力,「CAN-DOリスト」による学習到達目標の設定等の状況,ALT等及びICT機器の活用状況を取り上げて,過去6年間の経年変化の考察を行った。その結果,大半の項目で全国平均においては概ね良好な傾向にあるものの,都道府県や政令指定都市の地方自治体によるばらつきがあることなど,今後さらに改善していく必要性があるということが明らかになった。
著者
松本 純一
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.12, pp.29-38, 2004-03-15

近年日本語の話し言葉でよく聞かれる「~円からお預かりします」という言い回しに関して,その表現の成立と存在意義について,生成文法を始めとする理論言語学及び普遍文法の観点から考察する。結論として,この表現は本来助詞が存在しなくてよい部分に,丁寧さを高めるために日本語におけるデフォールトな後置詞「から」が挿入されたものであるという説明を提案する。この結論を支持する根拠として,現代日本語文法論における構造格と内在格との区別・日本語の後置詞「から」が持つ独自の性質・他言語における格体系・英語におけるデフォールトな前置詞などの言語現象を取り上げる。
著者
増満 圭子
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.209-222, 2006-03-15
著者
阿部 一
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.23, pp.21-36, 2015-03

現代日本人の中にも息づいている祖先祭祀や氏神信仰といった伝統的な民俗宗教は,もともとどのようなものであり,どのように受け継がれてきたのだろうか。無畜稲作を生業とする日本の伝統的な家族システムは母性優位であり,その民俗宗教は,自然の一部である人間と周縁の自然との感情的な交流を志向する共感的「かまえ」が優勢な母性的宗教であったと考えられる。古代日本人にとって,自然は人間の思いに応えて恵みをもたらす一方で,機嫌をそこねると災いを引き起こすものであり,自然がもつそのような力の換喩(メトニミー)であるカミに対して祈りが捧げられた。それは,人間の領域の周縁にいる周縁神であり,時宜に応じてやってくる来訪神であった。仏教(浄土教)の浸透により,死者が聖なる存在(ホトケ)として扱われるようになると,11世紀前半のイエの成立以降,祖先に成仏してもらうための祖先祭祀がイエの重要な宗教儀礼となった。14世紀後半以降,イエの集まりとしてのムラが形成されると,擬制的な祖先神として,氏神や産土神と呼ばれる鎮守のカミが祀られた。イエは先祖をホトケとして祀ることによって安定化し,その直系的な継承性の重視が鎮守のカミへの信仰に一神教的な性格をもたらした。イエやムラから縁遠くなった多くの現代日本人にも,死者を含めて自然を包括的にとらえ,それと感情的に交流しようとする母性的民俗宗教的な態度は受け継がれている。
著者
梅山 香代子
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.10, pp.125-136, 2002-03-15

戦後,日本が米国から受けた影響のなかでも刑事訴訟に関するものは大きいものであった。大日本帝国憲法から日本国憲法へと変化する中で,人権尊重が根本原理とされ,戦前はほとんど無視されていた刑事被告人や被疑者の人権を保護することが重要視された。これに基づいて制定された新刑事訴訟法と相俟って,日本における刑事訴訟は,人権尊重を基調として新たに出発することになった。 現在,日本国憲法で保障されている刑事事件の被疑者,被告人の権利は,合衆国憲法修正条項に由来するが,運用の面ではそれぞれの社会状況の応じて異なっている。第一に,陪審制度を原則とする米国では,法廷における口頭弁論を中心とするため,被疑者,被告人の反論の場を確保することを重要視する。これに対して,陪審制が根づかず,書面が中心となっている日本の裁判においては,被疑者の身柄の拘束や証拠収集,自白の信頼性などに厳しい要件を課している。 第二に,運用面で見れば,敗戦という事実によって米国主導で導入された憲法による人権保障は,日本国民にその精神が容易に理解され得ず,その理解のためには,一層の努力を要する。これに対し,米国では社会の拡大に伴い,根強い人種問題を抱えることになり,アメリカ合衆国憲法制定当時には予想しなかった事態が刑事訴訟の面でも問題とされるようになった。 それぞれの国の実情に応じて人権の保障を充実行くことが要請されている。
著者
中村 哲之
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.29, pp.1-8, 2021-02-15

ヒトを含めた多くの動物は、その脳機能の制約上、ありのままの世界を認識することはしない。それを端的に示す心理現象の1つとして、Goodale, & Milner(1992)は、ヒトの眼はエビングハウス錯視図によって騙されるが、指先の運動機能は騙されないことを示した。また、価値観といった比較的高次な認知機能が知覚の歪みを生じさせる研究も行われている(Bruner & Goodman, 1947 ; 川名・齋藤,2008 など)。本研究では、これらの先行研究を参考に、価値観が知覚・動作に与える影響について検討した。動作条件では、実験協力者に1円硬貨や500 円硬貨などを想像してもらった後で、利き手/非利き手でそれらを想像上で掴んでもらい、その際の親指と人差し指の開き具合を測定した。描写条件では、それらの硬貨の大きさを描いてもらった。実験の結果、動作条件の利き手と描写条件では価値の違いによる硬貨サイズに対する過大・過小知覚が確認されたのに対し、動作条件の非利き手では、それらの効果が消失した。この結果が生じた可能性について、日常生活における動作の特徴の観点から議論を展開した。