著者
梅沢 精
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.31-46, 1994-06-30 (Released:2010-05-07)
参考文献数
47

本稿はデュルケム社会学の展開途上にあらわれた二つの社会変動論に焦点をあわせ, 両者の比較検討をおこなったものである。前期デュルケムの社会変動論である〈形態学的社会進化論〉は『社会分業論』で論じられた「機械的連帯から有機的連帯へ」という周知の進化図式に結晶した社会変動論である。この理論においては, 変動の原動力は「社会的基体」であり, その進化すなわち未分化かつ同質的なものから異質的なものによる分業組織への移行にしたがって, 社会の在り方が変化するとされる。しかもこの進化は自然史的かつ必然的な社会の運動であり, 集合意識の在り方や個人意識の在り方もその社会的基体の様式によって規定されるのである。他方, 後期に展開されるのが〈沸騰的社会変動論〉というべきものである。ここにおいて, デュルケムは宗教研究の成果である「集合的沸騰 effervescence collective」 の概念を統合理論から変動理論に応用し, 人びとの身体的近接性を基盤とした闘争的でさえある集合的活動それ自体が新たな社会的理想を生み, 社会を作り替えて行くという変動理論を打ち出している。前期の静態的な変動論に対して, 後期のは動態的さらにはドラスティックな変動論ということができよう。しかし, 両者はデュルケム社会学のうちで, 必ずしも和解不可能な理論ではないと思われる。