著者
天野 松男 梅田 玄勝 中島 裕而 八木 邦子
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.3-12, 1988-01-20

女子製靴流れ作業者の労働態様の特徴を8mm撮影記録によって解析した.また,これらの流れ作業者の頸肩腕障害と労働態様との間の関係を非流れ作業者との102組の性,年齢をマッチしたペアにより断面的要因対照研究法を用いて検討した.結果は次のとおりであった.1)流れ作業者は1つのラインで毎日約3,400個のゴム底靴を製造していた.靴の完成品の重量は約200〜500gで,金属製の靴型の重量は約400〜1,200gであった.製造ラインは完全に機械化されていなかったので,作業者は手送りによって順次製造中の靴を次の作業者へ渡していた.2)労働態様の研究のために選んだある1つのラインでは,28人の女子作業者と1人の男子作業者が従事していた.作業の流れは右から左,あるいはその逆の一方向であった.労働態様は次の4つの基本動作に分類された.すなわち,1)靴や工具をつかむ,2)腕を伸ばしたり,3)曲げたりする,4)腕を一定肢位に保つ,の4つである.これらの基本動作は1日に作業者1人当たり3,400回以上繰り返された.また,右手に靴や工具を持っている時間よりも,左手で靴を持つ時間のほうがやや長い傾向を示した.3)医学的検査の結果は,タッピングテスト,痛覚,振動覚,モーレイテスト,手指の腱鞘炎,圧痛(胸椎労脊椎筋群,肩甲挙筋,僧帽筋,菱形筋,棘下筋,前斜角筋,拇指球,上腕二頭筋,腕〓骨筋,前腕屈筋群)の有所見率が,マクネマーの検定により,対照群より流れ作業者のほうに有意に高く認められた.そしてこれらは,流れ作業者の左側の肩,腕,手において顕著であった.4)非流れ作業者は一様で強制的な,あるいは一方向の作業を行わないので,むしろ右側(利腕側)の障害が多いが,それに対し流れ作業者は,靴の強制的な手渡しや一方向の作業により体の左側に労働負担が多くかかり,したがって左側に頸肩腕障害が顕著であると考えられた.5)靴の強制的な手渡しや一方向の作業が流れ作業者の特に左側の頸肩腕障害の原因であると結論した.