著者
出口 善隆 東山 由美 成田 大展 梨木 守 川崎 光代 荒川 亜矢子 平田 統一
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.185-191, 2007

耕作放棄地における放牧利用が全国的に推進されている。しかし、耕作放棄地における狭小面積・少頭数が放牧牛の行動やストレス反応へ与える影響は不明である。そこで、本研究では耕作放棄水田跡地放牧が、放牧牛の社会行動および尿中コルチゾール濃度に与える影響を明らかとすることを目的とした。耕作放棄水田跡地として、耕作放棄水田跡地2ヵ所(水田区: 3,673m^2および4,067m^2)、大面積・多頭数放牧地として岩手大学農学部附属寒冷FSC御明神牧場(大面積区: 22,678m^2)を調査地とした。水田区では黒毛和種繁殖牛または日本短角種繁殖牛2頭を放牧し(水田区A: 2004年5月21日-6月22日、7月28日-9月6日、水田区B: 6月24日-7月23日、8月27日-10月8日)、調査牛とした。大面積区では黒毛和種繁殖牛を含む計16〜29頭を放牧し(2004年5月31日-6月15日、8月5日-20日)、そのうち3頭を調査牛とした。行動調査は各放牧期間の初期および後期の4:00-18:00に行った。社会行動は連続観察により、それ以外の行動は1分毎のタイムサンプリングにより記録した。各行動調査の前後数日以内に1回、加えて退牧後に1回、調査対象牛の尿を採取し、尿中コルチゾール濃度を測定した。社会行動対象牛1頭あたりの親和行動の出現数は、水田区で大面積区より多かった(P<0.05)。親和行動以外の行動は両区間に差はなかった。退牧後の尿中コルチゾール濃度は、両区において差はなく、基礎値は同等であると考えられた。放牧初期の尿中コルチゾール濃度は、水田区において大面積区よりも有意に高かったが(P<0.05)、後期には差は認められなかった。水田跡地周囲では一般車両が頻繁に往来していた。少頭数での放牧であったことに加え、このような水田跡地の外部環境が、放牧初期のコルチゾール濃度を高めた一因として考えられる。しかしながら、放牧後期にはウシが環境に順応した可能性が考えられた。以上のことから、同一農家のウシを組み合わせた耕作放棄水田跡地放牧による、行動面・生理面に対する影響はないと判断される。
著者
梨木 守 須山 哲男 目黒 良平 加藤 忠司
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.118-125, 1991-09-02 (Released:2009-12-17)
参考文献数
42

放牧草地におけるエゾノギシギシ植物体内の含有成分からみた問題点を明らかにするたあに, 季節ごとのエゾノギシギシの乾物消化率と含有成分 (粗蛋白質, 繊維成分, 無機成分およびNO3-N) を同一草地から採取した牧草 (トールフェスク, シロクローバ) および草地雑草 (メヒシバ, イヌビエ, ウシハコベおよびイヌタデ) と比較した。1) エゾノギシギシの消化率は他の雑草, 牧草と比べて生育ステージに関係なく低かった。このことは高消化性物質の (OCC+Oa) の低含量と低消化性物質のADLの高含量により裏付けられていた。粗蛋白質含量は6月の開花・結実期を除いてトールフェスクや他の雑草より高く推移し, 平均で28%であった。2) エゾノギシギシの無機成分はとくにK, Mgが高含量で推移し, いずれの生育ステージにおいてもトールフェスクや他の雑草と比較して高い傾向を示した。Naを除く他の無機成分の含量も高いが, 一定の傾向は認められなかった。栄養成分比のCa/P比は高く, K/(Ca+Mg) 当量比は低く, さらに反栄養成分のNO3-N は高かった。3) しかし, エゾノギシギシは家畜の嗜好性が低く消化性も低いため, 高含量の粗蛋白質や無機成分は家畜に利用されず, 草地の単位面積当たりの飼料的栄養収量の低下を招く。また, 繁茂が続けば無機成分に対する牧草との競争が強まり, 肥料成分の無効化が懸念される。さらに, 一部のミネラル比の不良や NO3-Nの高含量については, 通常家畜の利用が低いために問題化は少ないと思われるが, 飼料成分的には好ましくない。より高い栄養価の牧草生産を目的とする草地管理の立場からは, エゾノギシギシの存在はその含有成分からみても障害となる。