著者
森 万佑子 出口 善隆 伴 和幸
出版者
動物の行動と管理学会
雑誌
動物の行動と管理学会誌 (ISSN:24350397)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.74-80, 2022-06-25 (Released:2022-07-20)
参考文献数
21

飼育環境が動物へ与えるストレスの評価は、動物福祉の充実において重要である。トラで糞中コルチゾール濃度がどの程度、血中コルチゾール濃度を反映しているか定かではない。本研究ではメスの飼育トラ1頭を用いて、年間を通じたコルチゾール濃度動態および糞中と血中のコルチゾール濃度の関係を調べた。その結果、糞中と血中のコルチゾール濃度において有意な正の相関が認められた (r=0.60、P<0.01) 。これより、糞中コルチゾール濃度は血中コルチゾール濃度の変動を反映していることが明らかとなり、非侵襲的なストレス評価に糞中コルチゾール濃度が有用だと考えられた。またトラで血中および糞中コルチゾール濃度には季節変動がみられず、年間を通じたストレス評価の指標として有用なことが示唆された。アムールトラやスマトラトラなどの他亜種で季節変動の影響を受けず、年間を通じた糞中コルチゾール濃度によるストレス評価が可能であると明らかにできると考えられた。
著者
出口 善隆 東山 由美 成田 大展 梨木 守 川崎 光代 荒川 亜矢子 平田 統一
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.185-191, 2007

耕作放棄地における放牧利用が全国的に推進されている。しかし、耕作放棄地における狭小面積・少頭数が放牧牛の行動やストレス反応へ与える影響は不明である。そこで、本研究では耕作放棄水田跡地放牧が、放牧牛の社会行動および尿中コルチゾール濃度に与える影響を明らかとすることを目的とした。耕作放棄水田跡地として、耕作放棄水田跡地2ヵ所(水田区: 3,673m^2および4,067m^2)、大面積・多頭数放牧地として岩手大学農学部附属寒冷FSC御明神牧場(大面積区: 22,678m^2)を調査地とした。水田区では黒毛和種繁殖牛または日本短角種繁殖牛2頭を放牧し(水田区A: 2004年5月21日-6月22日、7月28日-9月6日、水田区B: 6月24日-7月23日、8月27日-10月8日)、調査牛とした。大面積区では黒毛和種繁殖牛を含む計16〜29頭を放牧し(2004年5月31日-6月15日、8月5日-20日)、そのうち3頭を調査牛とした。行動調査は各放牧期間の初期および後期の4:00-18:00に行った。社会行動は連続観察により、それ以外の行動は1分毎のタイムサンプリングにより記録した。各行動調査の前後数日以内に1回、加えて退牧後に1回、調査対象牛の尿を採取し、尿中コルチゾール濃度を測定した。社会行動対象牛1頭あたりの親和行動の出現数は、水田区で大面積区より多かった(P<0.05)。親和行動以外の行動は両区間に差はなかった。退牧後の尿中コルチゾール濃度は、両区において差はなく、基礎値は同等であると考えられた。放牧初期の尿中コルチゾール濃度は、水田区において大面積区よりも有意に高かったが(P<0.05)、後期には差は認められなかった。水田跡地周囲では一般車両が頻繁に往来していた。少頭数での放牧であったことに加え、このような水田跡地の外部環境が、放牧初期のコルチゾール濃度を高めた一因として考えられる。しかしながら、放牧後期にはウシが環境に順応した可能性が考えられた。以上のことから、同一農家のウシを組み合わせた耕作放棄水田跡地放牧による、行動面・生理面に対する影響はないと判断される。
著者
出口 善隆 村山 恭太郎
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.37-41, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
20

岩手県盛岡市で新規に分布域が拡大したニホンジカ(Cervus nippon)個体群の生息地利用と性別割合を2年にわたり赤外線センサー付きカメラを用いて調べた.時間帯毎の撮影頭数には有意な偏りがあり,林地では日の出と日没前後に撮影頭数が増加したのに対し,果樹園では日没前後と深夜に撮影頭数が増加した.また,調査期間を前期(2011年12月~2012年11月)と後期(2012年12月~2013年11月)に分け,ニホンジカの撮影頻度と性別割合を比較したところ,後期には撮影頻度が2倍に増加し,雌の撮影割合が増加した.
著者
西 千秋 高瀬 力男 村上 卓男 小藤田 久義 松原 和衛 出口 善隆
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.135-142, 2012

近年,我が国では列車と野生動物との衝突事故が発生している。特に大型哺乳動物との列車事故は,野生動物保護の面から問題があるばかりか,鉄道会社にとっても列車の遅延などの経済的損失をまねくとともに,安全輸送への信頼を損ないかねない。そこで大型哺乳動物と列車との衝突事故の実態を調査し,対象種の生活史との関係を考察した。1999年から2003年に発生した哺乳動物と列車との衝突事故を調査対象とし,JR東日本盛岡支社から情報を得た。衝突事故動物種毎に,1999年から2003年までの発生件数を月ごとに集計した。衝突事故動物種は,シカ,カモシカ,クマに分類した。その結果,シカとカモシカを合わせた割合が,事故発生件数の約80%を占めた。クマと列車の事故件数は,どの年も10件未満であった。シカと列車との事故は6月と10月に多く,二峰型を示し,カモシカとの事故は7月に多く,一峰型を示した。クマでは初夏から9月にかけて事故件数が増加し,その後減少した。事故の発生時期は,シカ,カモシカ,クマの3種とともに,繁殖期,分散期などの生活史と深く関わっている事が示唆された。また,自己発生時間帯は夜間が中心である事がわかった。
著者
千代島 蒔人 大竹 崇寛 渡邊 篤 出口 善隆
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.225-231, 2022 (Released:2022-08-10)
参考文献数
24

To determine factors associated with the selection of rooting sites by wild boar (Sus scrofa) during winter snowfall, we conducted a snow-track census from January 2020 to February 2021 in Shizukuishi Town, Iwate Prefecture, Japan. We also collected and analyzed fresh boar feces during the study period. A generalized linear model was applied using the presence and absence of rooting tracks as the response variable; and forest type, snow depth on the survey date, and year as the explanatory variables. The best model, which used Akaike’s information criterion, included the forest type and snow depth on the survey date. The positive effect of broad-leaved mixed forest dominated by Quercus serrata and Q. crispula was statistically significant. In addition, acorns were frequently found and occupied 78.5% (mean proportion in total contents) of the sampled feces in 2020, when the snow depth range was 30–40 cm. Our findings indicate that wild boars prefer broad-leaved forests with less than 40 cm of snow depth, where acorns might be available. The positive effect of Cryptomeria japonica plantations and the negative effect of snow depth also showed statistical significance. These results indicate that wild boars selectively used evergreen coniferous forests to avoid deep snow and for easy rooting.
著者
出口 善隆 徳永 未来 山本 彩 高橋 志織 小野 康 丸山 正樹 木村 憲司 辻本 恒徳 岩瀬 孝司
出版者
動物の行動と管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.159-165, 2008-06-25 (Released:2017-02-06)
参考文献数
19

飼育下であってもクマの行動および生理学的特徴は季節と深く関わっている。そのため、環境エンリッチメントが行動におよぼす影響も季節により変化すると考えられる。そこで本研究では、春季から秋季において盛岡市動物公園で飼育されているツキノワグマ(雌3頭)に、環境エンリッチメントを行い、行動を調査した。環境エンリッチメントの効果の季節変化について検討することを目的とした。調査は、盛岡市動物公園のクマ舎の屋外運動場で行った。ツキノワグマの雌3頭を調査個体とした。クマは9時頃に運動場に出され、16時30分頃に寝室へ入れられた。運動場には岩、パーゴラやプールが配置されていた。給餌は1日に1回16時30分頃、寝室の中で与えられた。環境エンリッチメントとして、パーゴラとプールの横あるいは水を抜いたプールに樹枝を設置した。また、調査期間中、運動場内の10ヵ所にクリを3粒ずつ隠した。隠す場所は毎日変化させた。直接観察により行動を1分毎に記録した。エンリッチメント開始直後、1週間後、2週間後および1ヵ月後に行動を調査した。エンリッチメント処理により、春季には個体遊戯行動が、夏季には探査行動と個体遊戯行動が、秋季には探査行動がそれぞれ増加した(P<0.05)。また、摂取行動は、春季では開始前と比べ僅かに増加し、夏季では逆に減少しているのに対し、秋季では3倍以上に増加した。よって、エンリッチメントとして行った餌隠しの影響がいちばん大きく現れだのは秋季と考えられた。以上より、春季から夏季には、個体遊戯行動といった摂食にかかわらない行動を促す環境エンリッチメントが、越冬に備え摂食要求が強まる秋季には、摂食にかかわる行動を促す環境エンリッチメントが効果的であることが示唆された。
著者
西 千秋 出口 善隆 青井 俊樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.277-285, 2011 (Released:2012-01-21)
参考文献数
16
被引用文献数
6

盛岡市高松公園および周辺の森林においてニホンリス(Sciurus lis)の直接観察およびテレメトリー調査を行い,行動圏面積と行動圏重複率を明らかにした.また,行動圏内および重複・非重複行動圏内のオニグルミ(Juglans mandshurica var. sieboldiana,以下クルミ)の資源量を算出し,行動圏とクルミの資源量との関係を明らかにした. リスの平均行動圏面積はオスでは3.65 ha,メスでは1.45 haであり,平均行動圏重複率はオスでは36.5%,メスでは62.9%であった.本調査地のリスの行動圏面積は,既報における平均的な行動圏面積よりも狭かった.また,メスの行動圏は排他的ではなく,行動圏面積とクルミの本数密度との間に負の相関(P<0.05)があり,さらに,重複行動圏に含まれるクルミの本数密度は,非重複行動圏よりも大きいことが分かった(P<0.01). これらの結果より,メスの行動圏面積は,クルミの資源量が多いと狭くなり,クルミの資源量の多さが,メスの行動圏の重複につながると考えられた.本研究によってメスのリスの行動圏の確立,並びに行動圏の重複要因の一つにクルミの資源量が大きく関わっていることが示唆された.
著者
岡田 啓司 小林 晴紀 花田 直子 平沼 宏子 林 奈央 嵐 泰弘 千田 廉 出口 善隆 佐藤 繁
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.183-188, 2011-12-30 (Released:2013-05-17)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

挙肢を行わない簡便な蹄病診断法の確立を目的として,3軸加速度センサと跛行スコアを組み合わせて,牛の跛行の主な原因となっている蹄底潰瘍および白帯病の摘発を試みた.その結果,正常牛の歩様は外蹄から着地し内蹄で踏み切り,重心が左右にぶれない安定した歩様であるため,跛行スコアは1,加速度変量総和は3622±227m/s2で安定していた.蹄底潰瘍罹患牛は歩行時に罹患肢の内蹄と外蹄を同時に着地し,跛行スコアは2~3,加速度変量総和は7225±877m/s2であり,正常牛に比べて有意(p<0.01)な高値を示した.白帯病罹患牛の加速度変量総和は正常牛と同様の値を示したが,跛行スコアは3~4であった.よって加速度センサと跛行スコアを組み合わせることにより蹄底潰瘍と白帯病を摘発できる可能性が示唆された.
著者
西 千秋 高瀬 力男 村上 卓男 小藤田 久義 松原 和衛 出口 善隆
出版者
Japanese Soceity of Livestock Management
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.135-142, 2012-12-25 (Released:2017-02-06)
参考文献数
18

近年,我が国では列車と野生動物との衝突事故が発生している。特に大型哺乳動物との列車事故は,野生動物保護の面から問題があるばかりか,鉄道会社にとっても列車の遅延などの経済的損失をまねくとともに,安全輸送への信頼を損ないかねない。そこで大型哺乳動物と列車との衝突事故の実態を調査し,対象種の生活史との関係を考察した。1999年から2003年に発生した哺乳動物と列車との衝突事故を調査対象とし,JR東日本盛岡支社から情報を得た。衝突事故動物種毎に,1999年から2003年までの発生件数を月ごとに集計した。衝突事故動物種は,シカ,カモシカ,クマに分類した。その結果,シカとカモシカを合わせた割合が,事故発生件数の約80%を占めた。クマと列車の事故件数は,どの年も10件未満であった。シカと列車との事故は6月と10月に多く,二峰型を示し,カモシカとの事故は7月に多く,一峰型を示した。クマでは初夏から9月にかけて事故件数が増加し,その後減少した。事故の発生時期は,シカ,カモシカ,クマの3種とともに,繁殖期,分散期などの生活史と深く関わっている事が示唆された。また,自己発生時間帯は夜間が中心である事がわかった。
著者
菊池 晏那 西 千秋 出口 善隆
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.201-207, 2015

動物の分散は生息地への定住や定住先の個体群における遺伝的多様性に影響を与えるため,リスの保全を考えるうえでその把握が必要である.そこで,岩手県盛岡市の都市孤立林に生息するニホンリス(<i>Sciurus lis</i>)の幼獣の分散様式について2013年7月~2014年6月に調査を行った.調査はラジオトラッキングにより夜間にねぐらとして使用している場所(以下,「巣」とする)を特定した.分散過程(分散前,分散中,定住後)および幼獣と成獣の違いによる巣の変更距離(変更前後の巣間の直線距離)を比較した.その結果,リス類の主な分散期間である夏の巣の変更距離は成獣よりも幼獣のほうが有意に長かった.幼獣の巣の変更距離は分散前または定住後よりも分散中の期間が有意に長かった.また,幼獣における分散中の期間の行動範囲は分散前または定住後よりも拡大していた.これらのことからニホンリスの幼獣は分散中の期間に複数の巣を使い,行動範囲とともに巣間の変更距離を伸ばし,徐々に行動範囲を移動させることによって分散を行っていると考えられる.
著者
出口 善隆 DEGUCHI Yoshitaka
出版者
財団法人さんりく基金
雑誌
三陸総合研究
巻号頁・発行日
no.24, pp.31-36, 2004-01-30

日本短角牛放牧によるシバ型草地植生修復の可能性を検討するため、安家森放牧共用林野に放牧された日本短角牛4頭を5時から17時まで追跡し、行動を1分毎に記録した。摂食行動の場合は摂食した植物も記録した。調査は放牧初期(入牧~7月)、放牧中期(8月)、放牧後期(9月~終牧)の3回行った。その結果、パドックでは主に休息や反芻を行い、草地では主にグラミノイドの摂食を行っていた。放牧中期のカバノキ類の摂食は主にパドックで行われていた。またシバ型草地の枯死部の除去による富栄養化の防止および広葉草本の侵入の防止効果があると考えられた。シバ型草地が比較的のこされている草地の植生を維持することへの、日本短角牛による摂食の関与が示唆された。
著者
出口 善隆 佐藤 衆介 菅原 和夫
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.383-388, 2003-08-25
参考文献数
17
被引用文献数
5 3

2001年7月18日から9月5日まで東北大学附属農場の飼料用トウモロコシ圃場においてビデオ撮影を行いクマの侵入実態を,また圃場での倒伏本数調査より被害実態を明らかにした.調査期間中の圃場へのクマの侵入は52回観察された.調査圃場では7月22日に雌穂出穂が5割に達した.侵入期間は乳熟前期と乳熟後期に有意に偏っていた(χ<SUP>2</SUP>=33.2, P<0.001).侵入時間帯も00 : 00から06 : 00までと18 : 00から24 : 00までに有意に偏っていた(χ<SUP>2</SUP>=36.5, P<0.001).調査期間を通じてのトウモロコシの被害割合は13.8%,1日あたりの被害熱量は169,171kJ/日で,クマ6.52頭分の日摂取熱量に相当した.クマは乳熟前期から乳熟後期までのトウモロコシ圃場に強い侵入動機を示し,その時期の栄養要求のほぼすべてをトウモロコシで満たしている可能性が示唆された.