著者
山梨 裕美 小倉 匡俊 森村 成樹 林 美里 友永 雅己
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.73-84, 2016-06-25 (Released:2016-12-27)
参考文献数
73

母子分離は心身の健全な発達を妨げることが知られてきた。特に大型類人猿など、成育期間が長く幼少期の母子の結びつきが強い動物種においては影響が大きい。実際に人工保育されたチンパンジーは交尾や子育て行動が適切に発現できない、社会行動が変容するなど一生を通じた影響がみられる。そのため動物福祉・保全の観点から、不必要な人工保育は避けるべきである。またたとえ人工保育をおこなったとしても、できる限り早く群れに戻すことが必要であり、そうした事例が蓄積されている。しかしエンターテイメントショーには母子分離や人工保育を助長しやすい問題点が存在し、さらに動物の正しい理解が伝わらない問題点が指摘されている。今後、科学的な知見をもとにしたチンパンジーに適した飼育管理を推進するためには、人工保育やその後の群れ復帰などに関する基準の議論や施設間が連携して問題解決にあたれるような体制づくりなどが重要である。
著者
陳 香純 神田 幸司 上野 友香 友永 雅己 中島 定彦
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.87-94, 2015-06-25 (Released:2017-02-06)

水族館で飼育されている2頭の雌のバンドウイルカの吐き戻し行動に及ぼす遊具導入の効果について、環境エンリッチメントの視点と行動変容法の一つである単一事例計画法を用いて検討した。特別な処置を施さないベースライン期(A)の測定に引き続き、毎日の演技訓練(給餌を伴う)の直後にフープを30分間水槽に投入する介入期(B)を行った。介入によって吐き戻し行動の回数が減少することがA期とB期の繰り返し手続きにより明らかとなったが、効果の持続性と場面間の般化に関して個体差が認められた。
著者
三好 智子 袖山 修史 加藤 元海
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.98-105, 2016-06-25 (Released:2016-12-27)
参考文献数
34

本研究では、高知県内と大阪府にある5ヶ所の動物園と水族館において、飼育動物の体重と給餌内容から、1日あたりの摂餌量とエネルギー量の推定を行なった。対象生物は、体の大きさではトビからジンベエザメまでを網羅し、分類群では哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、頭足類の全35種191個体を対象とした。摂取する餌の重量やエネルギー量と体重の関係について、分類群ごとに特徴がみられるかを検証した。体重に対する餌重量の比の平均値は哺乳類で7.5%、鳥類で12.9%であったのに対して、爬虫両生類、魚類および頭足類は1%未満であった。単位体重あたりの摂取エネルギー量の平均値は哺乳類と鳥類は約100kcal/kgと高く、その他の分類群では15kcal/kg未満の低い値となった。単位体重あたりの餌摂取量に関しては恒温動物と変温動物との間に違いがみられたものの、1日あたりの摂取エネルギー量は体重の増大に比例して増加していたことから、飼育動物の摂取エネルギー量は分類群ごとに体重から推定できる可能性が示唆された。
著者
青山 真人 夏目 悠多 福井 えみ子 小金澤 正昭 杉田 昭栄
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.109-118, 2010

本研究の目的は、捕食動物に由来する種々の刺激がヤギに及ぼす忌避効果を、ヤギの生理学的および行動学的反応を解析することによって検討することである。実験1においては、7つの刺激-CDプレイヤーで再生したチェーンソーの運転音(ChS)、イヌの吠え声(DoB)、オオカミの遠吠え(WoH)、ライオンのうなり声(LiG)、トラのうなり声(TiG)、テレビモニターに映したオオカミの映像(WoV)、実物のイヌの毛皮(DoS)-をそれぞれ4頭のメスシバヤギに提示し、その反応を観察した。DoBおよびDoS区において、他の区に比較して血中コルチゾル(Cor)濃度が有意に高く(P<0.01、反復測定分散分析およびTukeyの検定)、30分間の身繕い行動の頻度が有意に少なかった(P<0.1、Friedmanの検定とNemenyiの検定)。他の刺激については、いずれの測定項目においても対照区(提示物なし、音声を出さないCDプレイヤー、映像を映さないテレビモニター)との間に違いはなかった。実験2においては、実験1と同じ4頭のヤギを用いて、ChS、DoB、WoH、LiG、TiG、DoSの6つの刺激の忌避効果を検討した。飼料のすぐ後方にこれらの刺激のいずれかを提示し、それぞれのヤギがこの飼料を摂食するまでに要する時間を測定した。4頭いずれの個体も、DoBおよびDoS区においては30分間の観察時間中に一度も飼料を摂食しなかった。一方、他の刺激においては遅くとも126秒以内には摂食を開始した。各個体においで、実験2における結果と、実験1における結果との間には強い相関が観られた(対血中Cor濃度:r=0.78〜0.94、対身繕い行動の頻度:r=-0.73〜-0.98)。実験3では、メスシバヤギ5頭を用い、実験1と同じ方法でChS、DoB、イヌの置物(DoF)、DoS、段ボール箱で覆ったイヌの毛皮(DSC)の効果を検証した。実験1と同様、DoBおよびDoS区において、有意な血中Cor濃度の増加と身繕い行動の頻度の減少が観られた。DSC区においては5頭中4頭が、顕著な血中Cor濃度の増加あるいは身繕い行動の頻度の減少のいずれかを示した。これらの結果から、本研究で観られたイヌの吠え声、あるいはイヌの毛皮に対する忌避効果は、ヤギがこれらの刺激に強い心理ストレスを持ったことが原因であると示唆された。さらに、視覚的な刺激は、少なくともそれが単独で提示された際には効果が薄いこと、聴覚的な刺激および嗅覚的刺激が強い忌避効果をもたらす可能性が示唆された。
著者
植竹 勝治
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理研究会誌 (ISSN:09166505)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.57-63, 1991-09-17
被引用文献数
2

牛と人の電気生理学的反応の類似性に基づき、牛にも人と同じ色覚メカニズムが存在すると仮定し、色覚異常の場合には識別が困難な色パネルの組合せを用いて、2者択一の識別学習手続きにより、ホルスタイン種育成牛の色覚検査を実施した。試験には生後約5ヶ月齢のホルスタイン種育成雌牛4頭を用い、野外に設置した迷路型の識別学習装置の左右にランダムに配置した赤と白の色パネルの赤側を報酬側として選択するよう予備訓練した。予備訓練は1セッション12試行とし、供試牛が赤側の識別を学習するまで続けた。識別学習の成立は、牛が12試行中10試行以上報酬側を選択することを基準に判断した。また、訓練の初期に牛が片側への位置偏好を示したので、位置偏好修正訓練を考案し、実施した。予備訓練の後、色覚異常の場合には識別が困難な赤と青緑(第1異常)、赤紫と緑(第2異常)、青と緑(第3異常)の3組の色パネルを用いて、それぞれ前者を報酬側とする識別学習(本試験)を順に10セッションづつ実施した。試行のやり方ならびに識別学習成立の判断は、予備訓練と同様に行った。さらに、本試験期間中に報酬側の識別が学習されなかった色の組合せについては、それが真に色パネル間の識別困難によるものかどうかを追試験により確認した。追試験では、本試験期における牛毎の学習状況に応じて、試験期間の延長あるいは位置偏好修正訓練の導入を行った。その結果、赤と青緑の組合せでは、本試験期間中に、すべての供試牛赤側の識別学習を成立させた。赤紫と緑の組合せでは、逆に、すべての供試牛が本試験の10セッションでは赤紫側の識別学習を成立できなかったが、しかし、追試験期には、すべての牛が赤紫側の識別学習を成立させることができた。青と緑の組合せでは、1頭の供試牛しか本試験期間中に青側の識別学習を成立することができなかったが、追試験によって他の3頭もすべて青側の識別学習を成立させた。したがって、ホルスタイン種牛が人と同じ色覚メカニズムを有するならば、その色覚は正常な3色型であることが示唆された。 日本家畜管理研究会誌、27(2) : 57-63.1991. 1991年5月24日受理
著者
臼井 三夫 坂爪 暁子 森田 一明 大部 吉郎 川名 種夫 松沢 安夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理研究会誌 (ISSN:09166505)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.55-61, 1992-09-01
被引用文献数
3

フリーストール牛舎内の搾乳牛(ホルスタイン種、ジャージー種及びガンジー種)を用い、冬と夏の季節の違い及び飼育密度の違いが横臥、起立、反舞、採食の回数とその時間、さらにストールの利用に及ぼす影響について1990年1月および8月に調査した。冬期低密度(8頭/25ストール)、夏期高密度(16および17頭/24ストール)及び夏期低密度(8頭/25ストール)の3区を設定し、10分間隔で連続24時間の観察を各2回実施した。横臥行動は、いずれも午前3時から4時の間に最もよくみられた。その出現回数には区間差はみられなかったが、持続時間は夏期に比べ冬期に長く、高密度区において短くなる傾向にあった。起立行動は横臥行動と逆の関係にあり、その時間は冬期よりも夏期で長かった。反芻及び採食行動の出現回数に区間差はみられなかったが、その持続時間は夏期よりも冬期で若干長くなる傾向があった。また、冬期には横臥反芻の時間が長くなり、夏期には起立反芻の時間が長い傾向が認められた。1頭の牛が24時間の間に利用するストールの数は6.5〜7.1個であったが、1回当たりの利用時間は夏期高密度区で短い傾向にあった。飼育密度が低い場合、利用頻度の高いストールに向かいあうストールの利用頻度が低くなったが、高密度の場合にはこのような傾向はみられなかった。日本家蓄管理研究会誌, 28(2) : 55-61.1992.1992年2月15日受理
著者
福澤 めぐみ 中島 彩香 若山 遥
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.151-157, 2018-12-25 (Released:2019-03-03)
参考文献数
15

シカ副産物(「大腿骨」、「肋骨」、「角」)に対するイヌの嗜好性を評価した。健康な成犬8頭(47.38 ± 36.80ヶ月齢、21.4 ± 9.78kg)に対して、3種類のシカ副産物を3分間提示した。嗜好テスト中の各副産物はケースに封入され、イヌは各副産物の特徴を視覚と嗅覚から入手することは可能だったが、直接の接触はできなかった。各副産物摂食経験による嗜好変化を検討するため、嗜好テストは摂食経験前および後、それぞれ3反復実施した。嗜好テスト中の行動(6項目)、副産物を封入したケース破壊の有無、副産物到達時間をそれぞれ連続記録した。探査行動の発現時間から、摂食経験前は「肋骨」や「角」よりも「大腿骨」に興味を示した。また、「角」への興味は反復に伴い低下した。摂食経験後もイヌは「肋骨」と「角」よりも「大腿骨」に興味を示し、到達時間は有意に短縮した。ケース破壊行動からは、「大腿骨」よりも「肋骨」への嗜好が高まったと考えられた。これらのことより、イヌのシカ副産物の外観に対する嗜好は摂食経験によって変化することが明らかとなった。
著者
安井 早紀 伊谷 原一
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.128-135, 2013-09-25 (Released:2017-02-06)

タイの東北部、スリン県のタクラン村は、古くからゾウを使役に使う少数民族クイ族の住む村であり、ゾウの村として知られている。タイでは、1989年に森林伐採が禁止されると、材木運搬等に従事していた多くのゾウは仕事を失い、代わりに観光客相手の仕事をするようになった。なかでも交通量の多い都会で観光客に向けて餌を売り歩くゾウとゾウ使いが増え、動物福祉の観点から問題視されるようになっていった。2005年、スリン県行政機構により村にスリン・ゾウ研究センターが設立され、経済的援助によりスリンでの生活を保障することで、スリン出身のゾウ使いと彼らのゾウを、故郷へ呼び戻すためのプロジェクトが始まった。そして現在、約200頭のゾウがセンターに登録されている。このセンターでのゾウとマフーの生活や、現地で行われているボランティア・プロジェクトについて紹介する。
著者
倉地 卓将 村瀬 香織 西出 雄大 小山 哲史 佐藤 俊幸
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.122-127, 2013

注意欠陥多動性障害(ADHD)は多動性、不注意、衝動性により特徴づけられる主要な精神疾患である。この疾患は犬においても確認されている。この疾患に対して頻繁に使用されるメチルフェニデートは、ドーパミントランスポーターに作用して遊離ドーパミン量を増加させるため、ドーパミントランスポーターのADHD発症に対する影響が注目されている。ドーパミンはADHDにおいて重要な役割を担っているため、22頭のビーグル犬を対象にドーパミントランスポーターの遺伝子であるSLC6A3のDNA配列を決定した。ADHDの評価については、行動評価アンケートの記入を飼育者に依頼した。SLC6A3遺伝子の4ヶ所で多型が確認された。A157Tの遺伝子型がAAの犬、G762Aの遺伝子型がGGの犬、および2歳以下の犬は注意欠陥の点数が高かった。また、2歳以下の犬は自発的活動性と衝動性の点数も高かった。これらの結果は、犬のADHDとドーパミントランスポーターに関連があることを示唆する。しかし、どのような機序によるものかを明らかにするためには、さらなる研究が必要である。